「「いい導入」、だったのに。。。」テノール! 人生はハーモニー TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
「いい導入」、だったのに。。。
「どこにでもいそうな普通の若者が、あるきっかけで(意外な)才能を達人に見いだされ、そのオファーを受けて始まるストーリー」
まぁ、若者に限定しないとしても、青春映画と言うジャンルでは恋愛やスポコンに並ぶベタなストーリーですね。何なら、その展開や結末だって大概意外性はなく、例えば何をもってネタバレとするかと言えば「その展開のアイディア」や「マイナスからの逆転に見るカタルシス」の部分だったりだと思います。
そして、私もこのベタは案外嫌いではありません。単純に観終わっての清々しさもありますし、主人公や周辺の人物が若手だったり、新人に近かったりすると、役者としての将来性の楽しみを味わえたり。さらに、作品におけるキャラクターが持つ能力(本作で言うところのラップやオペラ歌唱)を素晴らしい表現力で魅せてくれれば、評価も思わずプラスアルファを付けたくなる心情に駆られます。
それを踏まえての本作に対する感想ですが、、、
まずそもそもこの作品を観てみようかと思ったのは、予告にある「きっかけ」の部分における主人公アントワーヌ(MB14)と一流オペラ教師マリー(ミシェル・ラロック)が出会うシーン。これは「ラッパー青年に、まさかのオペラの才能が?」という意外性と、その際に垣間見えるアントワーヌの「雑草魂」に大きな期待がもてる「いい導入」だと思います。
ただ、残念ながらそれ以降はほぼダメ。。。
展開についての紆余曲折は、単に「周りに本当のことを言えない」という一点でただ嘘を繰り返すだけのアントワーヌ。そして、アントワーヌの周りの人間には辛いことも起こるけど、基本、アントワーヌは相変わらず嘘を打ち明けられないため「忙しい」ことくらい。結局、全般通して彼は特に何もしていません。
何なら大した練習シーンもないけど、どうなんでしょう?私はオペラは疎か、ラップバトルの方も全く門外漢ですが、知っている方が観たらイライラするのでは?と思うほどの、あまりに緩々な環境です。プロにとって「才能」は、その世界にチャレンジできる前提的な「基本」にはなるでしょうが、決して才能だけでは生き残れないのもプロの世界だと思います。にもかかわらず、物語上出てくる識者らしき人たちは、アントワーヌの歌声一発で称賛します。あの場面でその立場の人がスタンディングオベーションなんてしますかね。。
ただそれでも、その歌唱を本当に素晴らしいと感じれば「そういうもの」として全然目を瞑れるのですが、アントワーヌ以下、他の学生二人についても「私個人の主観」としては特に感動を感じなかったことも後押しして、、もはや白々しさすら感じてしまいました。
ちなみに、一人別格が本人役で出演のテノール歌手・ロベルト・アラーニャ。アントワーヌと一緒に歌うシーンは、残念ながらMB14の「モノマネ歌唱」を際立てている感じです。(苦笑)
そんなアントワーヌとしても、或いは作品そのものとしても救いになるのはアントワーヌ周辺の「仲間たち」ですが、特にシアターでも時折笑いを誘っていたのはアントワーヌの兄・ディディエ(ギョーム・デュエーム)。例えばアントワーヌの(ここも)嘘からの「苦肉の策」における「日本」の扱い方が巧く、むしろ日本人として好感を持てます。ただただ弟思いのいい兄貴です。
いや〜ほんとベタな展開の作品でしたが、個人的には楽しめました。しかしご指摘の通り、個人的に練習する場面もなく、それだけで最後のオーディションまでいけるのか不思議に思いました。