「妙なまでに求められる知識が高い上に複数回視聴が前提な気が…。」ジュリア(s) yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
妙なまでに求められる知識が高い上に複数回視聴が前提な気が…。
今年151本目(合計802本目/今月(2023年5月度)8本目)。
シネマートさんでは珍しいフランス映画です。
すでに他の方が書かれている通り、いわゆる「もしそうだったら?」のifを描くタイプで、明示的に時間軸の移動が表示されるものもあれば、されないものもあります。また、このifの話は最初に出てくる男性の方の「確率過程がどうこう」という話に本質的になるのですが(ただ、ここに気が付くのは数学科卒以外にいないと思う…。分野的には物理学部でも習うと思います)、何ら一般常識でも何でもないので(日本では学部4年の卒論の輪読会で読めばわかる程度で、学部共通で学習することはリアル日本の数学科ではほぼほぼない模様)、ここがかなり厳しいです。
そのうえに上記の事項から発展する「話の分岐」が「分岐の分岐」をしたり、序盤はドイツに関する歴史が求められたり、あるいは突如法律ネタになったりと、とにかく理解難易度が高く、複数回視聴がほぼ前提な気がします。特に数学ネタ(一部、物理ネタ)は平気な顔をして出てくる割にどうみても学部4年か修士レベルの話であり(しかも、確率論を専攻したというレベル)、そこを理解しようとすると完全につまります(そこらの書籍を読んだらわかるとかというレベルを超越しているため)。
ちょっとこれは、「日本の一般的な学習過程」を考慮すると、「そこまで字幕を理解できる方いるのかなぁ…」という理系(というより、数学ネタ)の「振り」が恐ろしく、そうかと思えば法律ワードが飛んできたりと、フランス映画といえば独特な余韻を残すものが好まれるとかと言われますが、余韻も何も、理解することさえ難しいという特殊な映画です。
正直なところ1回みただけだと、何を述べたいのかという主義主張がはっきりとせず(音楽の大切さ、ととるのは無理がある)、「感想を書き込むサイトなのに感想が書けない」という特異な映画です(きわめて限りなく「テネット」に近いほどのリアル学力を要求する映画といえます(あちらは物理8割数学2割というほどですが))。
評価に関しては、4.3を4.5まで切り上げたものです。
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(減点0.4/日本の一般的な視聴者に対する配慮が欠如している)
・ 「確率過程とブラウン運動」という字幕が突如登場する上に、この映画の理解は結局ここになります。ただ、この理解は数学と物理の融合分野の上に、この「確率過程」は本質的に公理的確率論まで要求する内容なので(ただし、映画内で描かれているように、人口知能などに応用されている、というのは事実)、これを理解して、さらに「映画の背景全体にこの数学的なネタが流れている」ということを把握するのは、もう無理じゃなかろうか…と思えます。
※ リアル日本でも、公理的確率論を学部で扱う数学科自体がそれほど多くないので(一般的には大学の数学科でも、高校1年で習う「一般的な確率論」(抽象確率論)で足ります)、実際に数学科でそういうことを学習したいなと思うなら、事前に扱う大学をシラバス等で把握していないとダメです。
(減点0.2/棄却と却下の違いの字幕の配慮)
・ 映画内では「却下」ですが、そのあとの描写を見ると、「日本で見る場合」には、ここは「棄却」が正しいです。
(却下) 書類の未提出、形式不備等で、手続き・裁判の「門前払い」を喰らうパターン
(棄却) 手続き・裁判には参加できた上で、「それでも言い分を認めない」というもの
※ 「門前払いか、とりあえず話は聞いたけど言い分を認めない」という違い。
(減点0.1/字幕の配慮)
・ この映画、フランス映画で、一部でドイツが出ますが(ベルリンの壁の崩壊の話)、全般的にフランスパートもドイツパートも、出てくる看板等に字幕が何もないので、何がどうなっているか不明です(ただ、ドイツパートの部分はリアル歴史事情でベルリンの壁について知っていれば、ある程度推測できるし、フランスパートの部分は、カフェや病院に行っている等描写が明確なので、読めなくても看板類が「それらの施設を意味するのだろう」という推測はつきます)。