劇場公開日 2024年5月17日

  • 予告編を見る

「ちょっと観てて苦しい」ミッシング 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ちょっと観てて苦しい

2024年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

石原さとみが二十代の頃、CMで観る彼女がとても魅力的で、彼女が出演する映画を期待して何作か観た。ところが残念ながら彼女がスクリーンで輝いていると思ったことは一度も無い。演技がイマイチなのか、作品に恵まれないのか、その両方なのか・・・

ただ、今放送されているTVドラマ“Destiny”を観て、「若い頃より今が一番キレイ」だと思った(ちょっと暗いドラマなのでこれも「輝いている」という感じではないけど)。また、本作の予告編の彼女の演技が迫真だったので、「今度こそいい作品を観られるかも」と期待が膨らんだ。

【物語】
沙織里(石原さとみ)は夫、豊(青木崇高)との間に娘・美羽(有田麗未)を授かり、惜しみない愛情を注いでいた。ところが、ある日突然美羽の行方が分からなくなる。近所の公園で沙織里の弟と遊んだ後わずか300m離れた家に帰る途中に姿を消したのだった。

捜索は全く進展しないまま時が流れ、世間が事件への関心を失っていくことに焦り、沙織里はTV番組の取材を必要以上に積極的に受ける。しかし、有効な情報は得られない一方で、ネット上には沙織里に対する心無い誹謗中傷が溢れる。

日々冷静でいられない沙織里は、平静を保とうとする夫に逆に不満を覚え、夫婦間の諍いも増えていく。

【感想】
んん、どうだろう・・・

力作ではあるのだけど、正直言って楽しめなかった。
救いが無い。 いや、ラストにわずかにあるのかも知れないが、観賞後の気持ちが晴れるには至らなかった。

本作のテーマは複数あると思う。観る人によって刺さる部分が異なるのではないかと思う。
俺的には以下の感じ。

 母親の娘へ強い愛情が故の身勝手さ(滑稽にさえ見える)
 究極の不幸に追い込まれたときの夫婦がお互いへの接し方(感じ方・考え方の差異をどう埋めて対処する?)
 マスコミの身勝手さと個人の良心
 ネット社会の世間の非道

いずれも、人間の表面の綺麗ごとではなく、底にある本性から来る心理なので観ていて苦しい。3,4番目は映画・ドラマで繰り返し取り上げられていることなので目新しさは無いので、俺的には最初の2つが本作で刺さった部分。

石原さとみが演じる母親は冷静さを失い、取り乱す様は傍から見れば身勝手にさえ見え、苛立ちさえ感じる。石原さとみは実生活で母親になったからこそ、思いの籠った演技が出来たのではないかと思う。期待通りの迫真の演技は評価したい。

しかしながら、そんな取り乱し、憔悴し切った姿が延々続き、キレイな石原さとみは拝むことができなかった。 そういう作品だから仕方ないのだけど、多少なりともそこに期待していたので、ちょっとガッカリ。

吉田恵輔監督作品は数作観ているが、大体明るい作品はではない。人間の内面をえぐるような、ひりひりするとうな作品が多い。その中で、本作に近いと思う空気の作品は古田新太主演の“空白”。娘の不幸な事故を起点に、それを受け容れられない父親の言動が描かれるが、こちらも観ているのが苦しくなるような人の本性的部分を延々と見せられる。が、ただ最後にもう少し救いがあった。父親も父親に責め続けられる相手の男も、やっと前を向いて歩けそうに思えて、ホッとして観終わることができる。 一方、本作ではこの夫婦に笑顔が戻る日をまだ想像できない。まだまだ主人公の苦しみは続きそうで・・・

大崩壊寸前だった家族の再生の気配が見えるところが唯一の救いではあるが、もう一歩進んだエンディングが欲しかった。

泣き虫オヤジ