「失われたものは」ミッシング ヨークさんの映画レビュー(感想・評価)
失われたものは
ドラマや音楽のように悲劇も大事件も消費されていく世の中では、「あの人は今…?」と取り上げてもらわないとその存在すら忘れてしまうくらいに急激な速度で過去に消えていく。
この映画はそんな悲劇に巻き込まれ、世間から忘れられた夫婦を追い続けた言わばドキュメンタリーのような物語。点ではなく線で見続けることによって分かることがある。
石原さとみ演じるお母さんのあの苛立ち方、追い詰められて選べない立場になった必死さが痛いほどよく分かる…。
分かる?
ほんとうに自分は分かっているんだろうか。
でも誰だって同じような経験はしたことがあると思う。あの見ていられないような痛々しい姿に共感性羞恥を覚えたのは私だけではないはず。
そんな苦しいくるしい経験はみんなしたことがあるはずなのに、すぐに忘れて「ただの事実」を勝手に切り取り街中にばら撒いていく。おもしろがって誰もがそれに火をつける。
ネットの誹謗中傷や人々の無関心、新鮮味のない悲劇より優先されるハレンチな喜劇。全部わかってる。みんな分かってることなのに無くならない。
この映画にすごく心震えても誹謗中傷する人はいるし子供の失踪ニュースを横目にSNSに夢中にもなる。
でもどこかに居なくなった娘を必死でさがすあのお母さんの涙や悲痛に叫ぶ姿が頭に残っていて、少しでも目の前にいる人やネットの向こうにいる人の気持ちを想像できたら、そんな想像力が生まれたら、きっと変わっていくとおもう。
最後に、石原さとみの演技は全編にわたってインパクトがあるなかで、娘が保護されたという電話が嘘だと分かって泣き叫び崩れていく姿を見た時に、「ああこの人は極限まで悲しんだことがある人なんだな」とおもった。自分も大切な人を目の前で亡くした時に、全く同じような泣き方をした。気が狂うんじゃないかと思うような絶叫に、妙な親近感を覚えた。
もし、あれが想像の演技なのだとしたら、石原さとみはとんでもない女優になったとおもう。