「最早「ホラー味」」ミッシング TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
最早「ホラー味」
公開初日午前回、109シネマズ木場の客入りはそれほど多くありません。吉田恵輔監督作品でこの温度感かと、やや残念さも感じつつゆったりエグゼクティブシート(会員はアップデート料金なし)で鑑賞です。
公開前、劇場で数回目にした本作のトレーラー。ご自身もご出産され子育て中の石原さとみさんにもこういう役を請け負われ、そして感情ほとばしる演技のご様子に、本編を観る前から「凄み」を感じておりました。ただ、ワーナーさんのトレーラーはアオる傾向も多いので、あまりイメージを先行させず出来るだけフラットに向き合うことに。ところが、本編を鑑賞し終わり、終始にわたって予想を軽々と超えてくるものがあります。いやぁ、、今回の石原さん、ヤバいっす。
相も変わらず吉田監督の脚本は意地が悪くて最高です。人の言動の迂闊さと悪循環、そして寒気を覚えるほどの悪意は救いようがありません。特に本作によって槍玉に挙げられることとなるTV(報道)というメディアについて、敢えてキー局ではなく地方局にしているところがまた如何にも「ありそう」で、且つ品のなさを感じます。そして、人の興味と悪意・善意のバランスの描き方が絶妙で、観ていてどんどんとしんどくなる展開が続いていたこともあり、終盤の反動に(被害者である)森下夫妻それぞれの気持ちが想像されて涙腺が緩みます。
まだ時期は早いですが、石原さとみさんは必ず賞レースに絡んでくると思われるだけの熱演です。お若いころから元々ダイナミックな演技をされるタイプでしたが、今回くらい振り切れると本気で「怖っ」という瞬間が数回あり、最早「ホラー味」すら感じます。そして、その相方としての立場でバランスを取る夫役の青木崇高さんがまたお上手。観ているこちらも青木さんに救われて観終えれたと錯覚させてくれるほど、取り繕うのとは異なる真の優しさを感じます。さらに今作最高の「あかんやつ」で、後半に改心しようとするも最後まで「あなた根本的にダメですわ」と溜息しか出ないキャラ、砂田を演じる中村倫也さんがあってこそ成立するキーマンを見事に演じ切っています。元々「煮え切らない」とか「不器用」役がお上手な方でしたが、売れてしばらく「イケメン」役が増えてましたからね。こういう中村倫也、おかえりなさいと思いました。
正直、他人に勧めるのには注意が必要な作品で、相当にネガティブに心揺さぶられ、メンタルにきますのでご覧になるのに気構えが必要です。とは言え、どこをとっても見応えしかない作品で、且つ石原さとみさんのキャリアとしても重要な一作になると思います。「無理せず」と付け加えつつ、ご興味があれば是非に。