劇場公開日 2024年5月17日

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「リアリティのある物語、感情を揺さぶられる演技、ともに素晴らしかった」ミッシング 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5リアリティのある物語、感情を揺さぶられる演技、ともに素晴らしかった

2024年5月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

6歳の一人娘の行方が突如分からなくなった両親を、石原さとみと青木崇高が演じた不条理ドラマでした。常識的に考えれば娘がいなくなった両親を励まし、支えるのが人情と思いきや、失踪当時石原さとみ演じる母親の森下沙織里が、娘を弟の圭吾に預け、友人とロックバンドのコンサートに行っていたことを捉えて、ネットの書き込みは沙織里をバッシング。また娘を預かっていながら、自宅まで送り届けなかった圭吾は、不注意を責められるのは致し方ないとして、むしろ犯人ではないかと疑われる。そのうちネットの書き込みに留まらず、自宅に石が投げつけられたり、警察を装い「娘さんが見つかりました」という悪質ないたずら電話まで掛かって来る始末。

勿論本作は創作ではありますが、匿名性をいいことに被害者を平気で傷つけるネットの悪意ある書き込みは、日常茶飯事に現実社会で見掛けるもので、運が悪ければ誰でも森下夫妻の如き憂き目を見かねない世の中の嫌な面を、まざまざと見せつけた作品でした。

特筆すべきは母親役の石原さとみの狂気の如き熱演でした。予告編の段階から非常に迫力のある演技だと思っていましたが、本編を観ると、娘を失った母親としての焦燥感や、ネットの悪質な書き込みを読んで苛立つ表情、そして悲しみや怒りの表情だけでなく、憑りつかれたような所作に至るまで、実に素晴らしい演技で、本当に期待以上でした。彼女の出演作は、石原さとみとしてのデビュー作「わたしのグランパ」、「シン・ゴジラ」、「忍びの国」くらいしか観ていないのですが、「わたしのグランパ」で観た時の若き才能に覚えた衝撃を再び思い出した気がしました。

また、父親役の青木崇高も、「犯罪都市 NO WAY OUT」の時の殺し屋役とは打って変わって、暴力に訴えない立派な夫を演じていて、痺れました。娘の失踪に半ば錯乱する妻をなだめ、職場や地元の協力者たちに頭を下げる父親役を演じたのが、一見極道にも思え、迫力ある青木だからこそ、より一層カッコよさを感じることが出来ました。

あと、幼女失踪事件を追うテレビ局記者の砂田を演じた中村倫也も、視聴率優先の局の姿勢と、娘を失った夫婦を助けたいという本心に揺れる葛藤を、実に見事に演じていました。

そんな訳で、リアリティ満点のストーリーにも心揺さぶられましたし、石原さとみをはじめとする俳優陣の絶妙の演技も非常に印象的だった本作の評価は★4.5とします。

鶏