バッド・デイ・ドライブ : 特集
【リーアム・ニーソンの人生最悪の1日に密着】
家庭崩壊×車に爆弾=泣きっ面にボム! 2023年は
ニーソン主演作が4本公開、本作はその最後の一作…
大好き&大満足&リピート必至! 絶対着席の超良作!
ついてない1日は誰しもあるだろうが、この映画の主人公ほどついてない1日はなかなかないだろう。12月1日から公開されるノンストップ・リアルタイムサスペンス「バッド・デイ・ドライブ」だ。
「96時間」シリーズで知られる“最強の親父”リーアム・ニーソン演じる主人公が、家族との関係性があっという間に崩壊し、順調だった仕事も突然トラブり、さらには子どもたちと一緒に乗った車に爆弾を仕掛けられ、ルールを破れば爆死、いろいろあって警察にも追われることになり――。
なんて日だ! んなんて日だ! 最悪の1日とも言うべき物語は、時間を追うごとに最悪が加速していき、やがて爆発的な快感が駆けめぐるクライマックスへと突入していくからまたすごい。
アクション映画ファンやニーソンファンはもちろん、最近のニーソン作品はあんまり観てないよって人も、アクションもあんまり観ないよって人も、全方位をきっちり大好き&大満足な気分にさせるはず……映画の良さが詰まった「バッド・デイ・ドライブ」、絶対着席!
【必見の理由①:物語が面白すぎる】最悪が加速する…
ニーソン、家庭崩壊。しかも車に爆弾を仕掛けられる。
映画.comを利用する皆様の多くは、「次にどんな映画を観よう?」と探しに来ているだろう。そんな“あなた”に、この「バッド・デイ・ドライブ」はおすすめ。なぜならば、シンプルに我々が「面白い映画」だと思うからだ。
この記事では、本作が必見である理由を3つにわけてご紹介していく。最初は「物語の面白さ」について。
●91分ノンストップのリアルタイムサスペンス!
この物語、良い! ここまで加速する最悪×カタルシス、なかなかないぞ!
本作最大の特徴のひとつは、“リーアム・ニーソン人生最悪の1日”“朝起きた瞬間から最悪が降りかかる”“そして最悪はどんどん加速していく”という物語だ。具体的にどんな状況に陥るのか、本編の導入で起こることを整理してみた。
人生最悪 レベル1:早朝から、息子と娘がケンカしている人生最悪 レベル2:超重要なクライアントが、取引休止を通達してきた人生最悪 レベル3:息子と娘を車で学校へ送り、その車中でクライアントに電話プレゼンするハメに人生最悪 レベル4:あれ、待って 運転席の下になんかある…人生最悪 レベル5:非通知で電話がかかってくる 「座席の下に爆弾仕掛けたから」人生最悪 レベル6:やばい、妻に電話しとこ 出ない オフィスにいないっぽい人生最悪 レベル7:なんとか妻の同僚につながる 衝撃の事実発覚→同僚「彼女は離婚弁護士に相談へ 悪いのはあなた」人生最悪 レベル∞:家庭崩壊×爆弾=泣きっ面にボム…本編はさらにとんでもない展開に――!以上、こんな感じでリーアム・ニーソンがすさまじい混乱に見舞われていくのだ。想像するだけで、もうワクワクしてこないだろうか。
そして強調しておきたいのが、本編は“さらにとんでもないことになる”……筆者もこの原稿を書いているそばから、もう一度観たくなってきたな~!
●このルール、痺れる! “絶対着席”の制約が、映画体験を10倍も20倍もスリリングにする
次に、映画をさらに魅力的にしているのが“絶対着席のルール”である。
ルール1:車から降りてはいけないルール2:通報してもいけないルール3:従わなければ即、爆破シンプルゆえに美しさすら感じられる“黄金の3カ条”。だから主人公は車を走らせ続け、通報したい気持ちをグッと抑え、時々かかってくる犯人からの電話に対応し、要求通りに移動し、後部座席の子どもたちを気遣い、妻との離婚危機に胃を痛くし、尻に爆弾の存在を感じて肝を冷やし、細かくかかってくる犯人からの電話にまた対応して……。
極限状況下での縛りが、あなたの映画体験の豊かさを10倍も20倍も増幅させていく。一方で画面のなかのリーアム・ニーソンはフラストレーションをためまくるが……果たしてどうなる!?
【必見の理由②:“最高のニーソン”をお見せしよう】
2023年は主演作4本公開 その最後にしてK点超えの良作
2つ目の必見の理由、それは“最高のリーアム・ニーソン”が観られること。
●ニーソン・イヤー:2023年4本目、かつ自身101本目の出演作 締めくくりの特別な映画、それが「バッド・デイ・ドライブ」
2023年は「ブラックライト」「MEMORY メモリー」「探偵マーロウ」と、ニーソン主演作が多く公開された“ニーソン・イヤー”だった。本作は記念すべき1年の締めくくりにやってきた4本目の主演作(かつ101本目の出演作)であり、全映画ファンが前のめりにチェックすべき特別な一作なのだ。
また、製作にジャウム・コレット=セラが名を連ねていることも要注目! 「エスター」「ロスト・バケーション」など尖った設定を連発する名手であり、ニーソンとは「アンノウン」「フライト・ゲーム」「ラン・オールナイト」「トレイン・ミッション」でタッグを組んだ盟友だ。
そして共演陣に目を向けると「これは!」という面々。主人公の妻役にエンベス・デイビッツが参加し、ニーソンとは「シンドラーのリスト」以来約30年ぶりに共演する。さらに実写「リトル・マーメイド」のノーマ・ドゥメズウェニ、「ワンダーウーマン 1984」のリリー・アスペル、「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」のジャック・チャンピオン、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のマシュー・モディーン。超大作で活躍した俳優たちが、唸るように繊細で確かな技巧の数々を見せ、映画全体に芸術的な芝居の妙味を加えている。
今年最後のニーソン出演映画×良作を連発する盟友とのタッグ×実力伯仲の共演陣。せっかくだから「バッド・デイ・ドライブ」を映画館で観て、2023年の映画納めといこうじゃあないか!
●おかわりしたくなるくらい“大満足”の映画体験!
いつものニーソン映画…じゃあない! いつも以上にテンパって、最大級にブチギレる!
さて、映画.com編集部が実際に観た感想を簡単にお伝えしよう。映画.comは「MEMORY メモリー」「探偵マーロウ」も特集しているので、本作が今年3本目のニーソン特集となるが、「またか」という既視感は全くなく、飽きることもなかった。むしろ、お腹いっぱいの状態で出されてもぺろりと平らげ、さらにおかわりもしたくなる、くらい大満足の映画体験だったから驚いた。
何がそこまで良かったのか? いろいろあるが、ひとつ挙げるとすれば“いつもの”とはちょっと違うニーソンの良さだ。
ニーソンが本作で演じたのは元軍人や特殊部隊所属でもなく、本当に“平凡な男”。肉体的にも精神的にも普通ゆえ、泣きっ面にボムの極限状況にうろたえまくり、珍しいくらいボロボロになるのだ。
しかしながら、予告編を観るとニーソン(主人公)が「殺してやる」と言い、暴走するさまを映し出している。オロオロしていたところから、そんなにブチギレるまでに何があったのか……ぜひ劇場で確かめてほしい、乞うご期待(もっと詳しくて興味深い解説は、本記事最後の【必見の理由③】でチェック!)。
【必見の理由③:二面性と封印された肉弾アクション】
評論家がガチレビュー「すべてを91分に濃縮した快作」
では最後の必見の理由を、映画評論家・ライターの高橋諭治氏にご解説いただこう。強さと弱さの二面性を劇的に体現した演技力や、肉弾アクションを封印し、また別の次元の面白みを加えた設定の巧みさなど、多角的に語ってもらった。
●リーアム・ニーソン:「最強の父親」から、人間の脆さを積極的に演じるまで
1952年生まれのリーアム・ニーソンは齢70を超えた今も精力的に活動し、ハイペースでジャンル映画の主演を務めている。周知の通り、その転機になったのは「96時間」(2008)で演じた“最強の父親”ブライアン・ミルズ。この意外性抜群の当たり役でアクション演技に開眼したニーソンは、行く手を阻む悪党どもをばったばったとなぎ倒すタフガイのイメージを鮮烈に印象づけた。
ところが「96時間」以降のフィルモグラフィーをたどると、ニーソンがひたすら“強い”映画はほとんどない。むしろ最愛の妻に先立たれた喪失感を引きずる警備員役の「THE GREY 凍える太陽」(2012)、酒におぼれた過去を持つ私立探偵役の「誘拐の掟」(2014)のように、暗い背景があるキャラクターに扮したときこそニーソンの真骨頂が発揮される。
おそらく本人も、その点を自覚して役どころを選んでいるのだろう。ジャウマ・コレット=セラ監督との4本のタッグ作「アンノウン」(2011)、「フライト・ゲーム」(2014)、「ラン・オールナイト」(2015)、「トレイン・ミッション」(2018)でも、積極的に人間の“弱さ”を表現してきた。
●肉弾アクションを封印。哀れさが終盤に反転し、キャリア史上最大級の逆ギレへ
コレット=セラが製作に名を連ねた最新作「バッド・デイ・ドライブ」の主人公マット・ターナーは、このうえなくニーソンにうってつけのキャラクターだ。
姿なき爆弾魔に脅迫され、ひたすら理不尽な指示に従うしかない無力な男。家族との関係は冷えきっていて、犯人からは仕事上の後ろめたい過去を掘り起こされる。夫としての信頼、父親としての威厳、ビジネスマンとしての誇りを、ことごとく失墜させられた崖っぷちの危機だ。
おまけに警察にまで追われるはめになるマットは、これだけでもどうしようもなく“弱い”立場なのだが、全編にわたって車の運転席に釘付けにされる設定も彼の苦境をいっそう強調する。
なぜなら、それは主演俳優ニーソンのフィジカルな自由を奪い、肉弾アクションを封印することにほかならないからだ。これぞ英語タイトルの『Retribution』、すなわち“天罰”が示す四面楚歌のシチュエーションである。
そうして狡猾なサイコパスのごとき爆弾魔に翻弄され続け、ニーソンがにじませる弱さ、哀れさ、情けなさが、終盤にとてつもない強度で反転する。主人公が鬼の形相でたまりにたまった怒りを暴発させるクライマックスは、ニーソンのキャリア史上最大級の逆ギレだ。
●ニーソンは二面性を最も劇的に体現し、ノンストップ&リアルタイムで疾走する
実はこの映画、スペインのアカデミー賞と呼ばれるゴヤ賞で8部門ノミネート(うち編集賞、音響賞を受賞)された「暴走車 ランナウェイ・カー」(2015)が元ネタなのだが、人間の“弱さ”と“強さ”のギャップを最大限に押し広げた脚色、その二面性を最も劇的に体現できるニーソンに適用したキャスティングの勝利とも言える。
そもそもスリラーとは「ある日突然、事件や陰謀に巻き込まれた主人公が、穏やかな日常を取り戻すために奮闘する」ジャンルだ。無駄な要素を一切省いてノンストップ&リアルタイムで疾走し、すべてを91分に濃縮した本作は、まさにこのジャンルの見本のような快作に仕上がっている。(高橋諭治)