「ハリウッド的お約束も含め、B級サスペンスと割り切るならありか」バッド・デイ・ドライブ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッド的お約束も含め、B級サスペンスと割り切るならありか
2015年のスペイン映画「暴走車 ランナウェイ・カー」がオリジナルで、ドイツの「タイムリミット 見知らぬ影」(2018)、韓国の「ハード・ヒット 発信制限」(2021)、そして2023年の本作と、本家の公開からわずか8年の間に3度もリメイクされるという、かなり珍しいケースでは……と、ここまで書いて思い出した。今年6月に日本で公開された韓国映画「告白、あるいは完璧な弁護」もやはりスペイン製サスペンスの4度目リメイクだったか。近年のスペイン発脚本のオリジナリティが各国の映画界から高評価されているのかも。
金融業界で働く主人公の車に爆弾が仕掛けられ、運転席にかかる重量に反応する起爆装置のせいで車から降りられない主人公が、正体不明の犯人からの指示を受け市街を走らされたり大金を振り込むよう求められたり――という大筋は同じ。韓国版リメイク「ハード・ヒット 発信制限」のレビュー枠で、キアヌ・リーブス主演作「スピード」のアイデアをスケールダウンしたような話といったようなことを書いたが、本作「バッド・デイ・ドライブ」でもその印象は変わらない。
この3度目リメイクでは、脅迫犯の設定がオリジナルから変更されている。ここから本格的なネタばらしになってしまうことをご容赦願いたいが、犯人捜しのサスペンス映画で、ビッグネームのベテラン俳優が主人公に近い関係(仕事仲間とか味方とか)だが一見重要そうでない人物を演じている場合、実は真犯人だったり黒幕だったりするというパターンがよくある。1980年代から洋画を観てきた映画ファンなら、冒頭で主演リーアム・ニーソンがビデオ通話で話す相手がマシュー・モディーンの時点で「お、怪しい(笑)」となるのではないか。ノオミ・ラパス主演作「アンロック 陰謀のコード」のレビュー枠でも「昔『サスペンスドラマに本田博太郎が出てきたら大体犯人』というジョークがあったが、本作のキャスティングもそれに近い。」と書いたが、「バッド・デイ・ドライブ」もまさにそう。ハリウッド的お約束とも言える変更点であり、この分かりやすさや安心感もB級ならではと割り切れるならありだろうか。
これも「ハード・ヒット 発信制限」のレビュー枠で指摘したことだが、運転席にかかる重量が軽くなると起爆するはずの装置のいい加減さが、本作でも改まっていない。ラスト近くで橋の欄干から車が横向きで宙づりになった時点で、主人公の体重がかかるのは座面からシートベルトおよびその固定部分に移っている。座面の荷重が軽くなったら起爆するという前提が、座面を離れたら起爆するという設定に都合よく変わっていると書けば伝わりやすいだろうか。ついでに、あのシーンで主人公がシートベルトを外して真下に落ちるはずなのに、別角度の引きのショットではニーソンが数メートル斜め横に(うまく爆発を避けるように)落ちていくのも物理法則を無視していて雑だけれど、こんなところもB級らしさとして楽しむのが大人のたしなみかもしれない。