劇場公開日 2023年9月1日

  • 予告編を見る

「「紋切り型の筋書き」は伝記として最も恥ずべき結果ではないのか」ウェルカム トゥ ダリ Elvis_Invulさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5「紋切り型の筋書き」は伝記として最も恥ずべき結果ではないのか

2023年9月19日
PCから投稿

絵画の世界に生きる青年ジェームス・リントン、彼がある火災のニュースと共に回顧するのは天才芸術家サルバドール・ダリとその強烈なる妻ガラと過ごした日々……

筆者は決して伝記映画に明るいとは言えないが、この既視感と予定調和は何なのだろうか。
未だ何物でもない青年の眼から見る、狂奔する老芸術家とその取り巻き、無二の盟友でありながら関係に隙間風の吹く妻、二人を苛むスター気取りの間男、そして己は正気だと主張しながら後ろ暗い金稼ぎに勤しむマネージャー……
皆が皆登場して数分でキャラの底が出てしまうお定まりの造形、何の驚きもなく淡々と予想通りの展開が続く脚本。そこに「サルバドール・ダリとはこうだったのか!」という意外性はどこにも存在しない。伝記映画とはそこに個性をもたらすことで偉人の生涯を描き出すものだと思うのだが……

既に別レビューでも指摘されているが、
本作は諸事情によりダリの実際の作品は一切登場しない。
必然工夫の限りを凝らしてダリという個性を描き出す必要がある筈にも関わらず本作は明らかにそれに失敗しており、残るのは「食卓のチーズと鳴り響く秒針の音」から代表作『記憶の固執』―――或いは”とろけた時計が描かれたあの作品”―――の登場に期待した心を肩透かしされた脱力感のみである。
……まさかとは思うが、チュッパチャプスを彷彿とさせる”棒付き飴、但し包み紙未登場”は伝記映画として異常と言える不備への抗議なのだろうか……

「一度見たら二度と忘れず心に焼き付く」と名作のもたらす感動を表現した本作だが、
ならば思い出す取っ掛かりすら難儀する程に凡庸な本作の存在意義とは何なのか。
深い失望を感じざるを得ない。

Elvis_Invul