劇場公開日 2023年8月11日

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「一筋縄では行かない映画」アウシュヴィッツの生還者 かぜさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0一筋縄では行かない映画

2023年9月9日
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この映画を始まって、すぐに頭に浮かんだのは、何十年も前にNHKで見た「キティ、アウシュヴィッツに帰る」と言うドキュメンタリー番組だった。アウシュビッツから奇跡的に生還したキティ・ハートと言う女性が、再び収容所を訪れて当時の記憶をたどりながら、想像を絶する悲惨な収容所の生活を生々しい語り口で語ると言う内容で、あまりのインパクトの強さに今でも忘れられないドキュメンタリーだ。ネットで調べたら、やはりその当時に強く記憶に残っている人が結構いて、この番組が1985年に製作され、翌年の1986年の10月にNHKで放映されたことが判った。今でも図書館などの公共施設のビデオライブラリーで視聴出来るくらいの伝説的なドキュメンタリーであった。収容所時代の過酷な生活や生還するまでのエピソードも去ることながら、自分がこの番組で一番に強く記憶に残っているのは、彼女が生還後、イギリスでの日常生活のシーンの中で健康のためにプールで水泳をすると言う何気ない場面なのだが、その激しい泳ぎ方が、鬼気迫るものがあり、そこに生死の淵を渡って来た人間の生きることへの渇望の凄さを見せられた。戦争の地獄を体験をした人間にとって、その記憶と心の傷はなかなか消えないわけで、この映画はそうした経験を経た人々がその後、何を考え、どのように生きていったのかが、丁寧に描かれているところが素晴らしい。しかも声高にもヒステリックにもならずに、人間愛に溢れながら表現されているのは、バリー・レビンソン監督の力量ならではであり、ハンス・ジマーの内なる哀しみを秘めた重厚な音楽そのものだ。そして、何よりもレイジング・ブルやアンタッチャブルのロバート・デ・ニーロを彷彿とさせる主演のベン・フォスターの体を張った怪演しかもそれを感じさせない自然な演技がこの作品の成功の要因だ。この映画のあらすじを話すのは、一筋縄ではいかない展開だけに、やめておこう。一言だけ、ポスターから想起させる程の陰惨な印象はない仕上がりになっているのでは?

かぜ