「強烈なポスタービジュアルに囚われずに観るのが吉の良作な人間ドラマです。」アウシュヴィッツの生還者 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
強烈なポスタービジュアルに囚われずに観るのが吉の良作な人間ドラマです。
以前からポスタービジュアルに惹かれて、鑑賞したかった作品をやっと鑑賞しました。
で、感想はと言うと…もっと強烈かつ壮絶な描写の数々と思いきや、ちょっと思ってたのと違いますが、一人の男性の強烈な体験からの人生を描き出すヒューマンドラマとして見応えがあります。
アウシュヴィッツ収容所から生還した、ハリー・ハフトの半生をを描いたストーリーでアウシュヴィッツでの壮絶なボクシング(と呼べない程の殴り合い)シーンなどのモノクロと生還後のカラー描写のコントラストが印象的。
ポスタービジュアルの印象が強すぎて、最初見た時に“ん?北欧の処刑人、ヨアキム・ハンセンか?”と思ってしまったw
アウシュヴィッツをテーマにした作品は多々ありますが、同じボクシングを題材にしたアウシュヴィッツ作品に2020年に公開された「アウシュヴィッツのチャンピオン」がありますが、モノクロが使用されている分、こちらの方がより凄惨に見える。
特にハリー役のベン・フォスターの過酷な減量で壮絶な収監者の身体を作り上げたのは見事としか言いようがない。
なので現代パートのハリーがものすごくポッチャリに見えるしw、全く別人にしか見えないのは凄過ぎ。
個人的には2016年の「疑惑のチャンピオン」の主人公のランス・アームストロング役が印象的だけど、結構カメレオン俳優で役幅も広い。特に今作でもうワンランク幅を広げたと思う。
作品の一番のウリはモノクロで構成されるアウシュヴィッツでの回想シーンでふとした事から賭けボクシングの選手として闘いを繰り広げられる。勝てば生還。負ければ死はまさしくDead or Alive。
お粗末なリングにお粗末なグローブ。もうボクシングのボクサーと言うよりかは闘犬や闘鶏のような感じで場末感どころの騒ぎではない。
奇跡的にアウシュヴィッツから逃走で生還したハリーのその後は恋人のレアを探しつつ、アウシュヴィッツから生還者の異名でボクサーとして活躍するが稀代のチャンプ、ロッキー・マルシアノとの対戦がボクサーとしてのクライマックス。
引退後は様々にサポートをしてくれたミリアムと結婚し、子供を設けながらも様々な苦悩に苛まれるがあんな壮絶な体験をしたらそりゃそうなるだろうと。
実際には逃走した際にももっと悲惨かつ凄惨な体験をしたらしいが劇中ではそこは端折られていた。
個人的にはちょっと惜しい。ここが深掘りしていればもっと感情移入もしていたと思うけど、口にも憚れるだけの内容なのでハリー個人の人間性を左右しかねない為に難しいところ。
個人的に難点に感じたのはアウシュヴィッツの体験からかボクサーとしてのハリーが些か生彩に欠けている様に映るのと壮絶な賭けボクシングの数々に比べて、収容所での生活というか日常描写が少ないせいか、アウシュヴィッツ収容所の悲惨さが薄く感じる。
また生き別れた恋人のレアのことやボクサーの活動。引退しても続く様々な苦悩などを取り入れているせいで些か焦点がブレる様にも感じる。
実話を元にしているので、様々なポイントがあるのは仕方ないんですが、もう少しポイントを絞っても良かったかなと。
ナチスの将校でハリーを賭けボクシングの選手に仕立て上げるシュナイダーはアメとムチがイヤラシイw でも意外と人情的にも見えるんですよね。
もっとアウシュヴィッツでの悪行の数々(十分悪行過ぎますが)を出してみて、“ザマーミロ!”と思わせても良かったかな。
いろんなトラウマから性行為もままならないと思いきや、無事に子供も授かり(それも3人w)、結構昭和のオヤジよろしくのスパルタパパな描写はちょっと今なら奇妙に映ったりしますが、意外と良いオヤジ感が板についてる。また結婚前にミリアムとデートをするハリーがまたダンディーで渋い。ボルサリーノな帽子もめっちゃ似合ってる♪
モノクロ映像が殆どかと思いきや、半分以上がカラーの現代パート。凄絶なボクシングと収容所生活が大半かと思うと結構肩透かしな感じがしますが、1人の男の半生として観ると凄く良い作品。
リングからの生還。
地獄からの生還。
トラウマからの生還。
過去からの生還。
束縛からの生還。
様々な事からの生還は全ての人生においてあるべきこと。
ちょっとポスタービジュアルのイメージで内容を固定してしまいがちになりますが良い作品。
上映館も結構少ないけど、機会があれば是非是非♪