「【”「チェスの書」今日、我々は精神力が無敵である事を信じなければならぬ。”ナチスによる精神的拷問に屈せず、一冊のチェスの本によりオーストリアの財産をナチスに渡さなかった男の物語。】」ナチスに仕掛けたチェスゲーム NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”「チェスの書」今日、我々は精神力が無敵である事を信じなければならぬ。”ナチスによる精神的拷問に屈せず、一冊のチェスの本によりオーストリアの財産をナチスに渡さなかった男の物語。】
ー ご存じの通り、今作はナチスに抵抗し続けたシュテファン・ツヴァイクの最後の短編「チェスの書」に着想を得て制作されている。
フィリップ・シュテルツェル監督は、そこに大胆な改編を加えて見応えあるサスペンススリラーとして、映像化しているのである。-
■久しぶりに再会した妻ハンナ(ビルギット・ミニヒマイアー)とアメリカ行きの豪華客船に乗り込んだヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ:コメディ「帰ってきたヒトラー」で、命懸けでヒトラーを演じた名優である。皮肉が効いているキャスティングである。)。
船内ではチェス大会が開かれ、彼は船のオーナー、オーヴェン・マッコーナーに助言を与えて世界王者ミルコと引き分けまで持ち込んだ。
ヨーゼフは王者から一騎打ちを依頼されるが、彼のチェスの強さには理由があった。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作は、上記粗筋と並行して、公証人でありオーストリアの富豪たちの財産管理を任されていたヨーゼフ・バルトークが、ゲシュタポのフランツ(アルブレヒト・シュッフ)により高級ホテルに、一年もの間幽閉され、富豪たちの金を収めた銀行口座を口外するように強要される姿が描かれている。
・ご存じのように、知識人にとっては肉体的拷問より、今作で描かれているように密室に閉じこめられ、人と話す事も、文字を読むことも禁じられると、精神に異常を来すケースが多いと言われている。
・今作では、ヨーゼフ・バルトークが精神的に追い込まれて行く中で、偶々廃棄される予定だったチェスの本を入手し、それを隅から隅まで読解して行く事で精神の平衡を”ギリギリ保ち”大切なオーストリアの金をナチスに引き渡すことを拒否し、結果的にチェスの世界王者と対等に戦えるスキルを得る過程がサスペンスフルに描かれているのである。
・但し、哀しいのはヨーゼフ・バルトークが精神的に追い詰められた結果、彼が精神病院に収容されてしまう点であろう。
ここは、観る側の解釈に委ねられるが、アメリカ行きの豪華客船に乗り込んだ描写が、総てヨーゼフ・バルトークの妄想内で行われていた事であろうか。
だが、それはシュテファン・ツヴァイクが亡命先で「チェスの書」を書き終えた後に、夫人と自害したという点と連動させているのだろう。
今作のラストで流れる”今日、我々は精神力が無敵である事を信じなければならぬ。”というシュテファン・ツヴァイクの言葉は、大変に重いのである。
<今作は、ナチスによる精神的拷問に屈せず、一冊のチェスの本によりオーストリアの財産をナチスに渡さなかった男の”物語”なのである。>