夜の外側 イタリアを震撼させた55日間のレビュー・感想・評価
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楽しめたけど微妙
誘拐されたモーロ元首相が、最後どうなるかの歴史的事実(結果)は知っているのに、手に汗しながらドキドキと観てしまいました。
羅生門メソッドに近いような6部構成で。
(前編)
1.アルド・モーロ本人目線
2.コッシーガ目線
3.教皇目線
(後編)
4.赤い旅団のメンバーのアドリアーナ目線
5.モーロの妻目線
6.第三者 神の目線
で、映画的な想像や創作も交えながら、事件の事実を再構築していました。
全編を通して、捜索を指揮するコッシーガ内務大臣(キリスト教民主党/DC)が、政治家として親同然の「師」と慕うモーロを必死に探す描写がありました。
ところが、コッシーガの上役で、モーロと政策上対立し首相・大統領の座を競っていた(いわば政敵)、同じDCのアンドレオッティ首相・閣僚評議会議長は、作中でその対立は明確に描かれないものの、心配するふりだけして真っ先にモーロを切り捨てるんですな。
そして、政権は対赤テロリストのスペシャリストをアメリカから呼ぶのだが、(これまた明確に描かれないが)「司令で来た」「帰る」のセリフがある以上、反共狙いでイタリアに圧力をかけに来ていたCIAのエージェントという描写なのだろう。
その2人からの圧力でコッシーガは、モーロを「助けたい、見つけたい」という気持ちと「国の威信や立場を考え、また様々な圧力がある以上、見捨てねばならない」という現実に挟まれ苦しむという描写がされていました。
しかし、現実のコッシーガって、アンドレオッティに尻尾ふって翌年には首相、85~92年には大統領になったし、この長期にわたる腐敗政権の中枢に居続けた男なので、この描写が滑稽なくらい白々しく感じてしまいました。
そもそもアンドレオッティなんか、マフィアとつるんで犯罪や暗殺事件にも関わり、賄賂受けまくりがのちにバレて、政官界の大規模汚職摘発でDCを潰した原因の一人ですからね。
(しかも、NATOやアメリカなど反共勢力に庇われて、その後の裁判で無罪を勝ち取る厚顔無恥なクソ野郎です)
その辺を「周知の事実」として一切描かないのは、イタリア人じゃない普通の日本人にゃ、なかなかわからないはずですよ(私はたまたま他のノアール映画…『イル・ディーヴォ』だったかなんかで知っていましたが)。
コッシーガがモーロの目撃情報を元に、精神病院や映画撮影ロケ現場に捜索しに行き、落胆するとか、モーロが無事に救出され病院で再会する白昼夢を見るとか、よく言えば「希望を感じるifな創作」、悪く言えば「腐敗した政界の矛盾をビジュアル化した醜悪な嘘」が盛られていて、なんかこう、ラストの方はイラっとしました。
しかも、そもそも「テロ組織・赤い旅団は、親ロシア親共産党へ傾きつつあったモーロを暗殺するための、アメリカとアンドレオッティの自作自演的に仕込まれた、使い捨てのバカなただの駒」ともとれる、陰謀論じみた「匂わせ」まで入れていて。
なにが真実なんだか、なにがフィクションなんだかわからない、「メタ」作品に仕上がってた印象です。
それが映画のスリラー的な緊迫感を生んで面白くもあり、作りすぎだろって醒めてしまう部分でもあり、楽しめたけど微妙な作品だなぁとしみじみしました。
1978年、伊元首相アルド・モーロ(ファブリツィオ・ジフーニ)が、...
1978年、伊元首相アルド・モーロ(ファブリツィオ・ジフーニ)が、極左武装集団『赤い旅団』に誘拐される。
モーロは、キリスト教民主党(略称:DC)の党首であり、政界のフィクサー。
ローマ教皇パウロ6世(トニ・セルヴィッロ)とも親しい間柄である。
当時の伊政界は混迷を極めており、保守派キリスト教民主党政権与党であるが過半数に満たず、伊共産党と連立で政権を担おうとしていた矢先のことであった・・・
といったところからはじまる物語で、6章仕立てで描いていきます。
章のサブタイトルは数字のみだが、各章に中心となる人物がい、彼(彼女)らの視点で物語が語られます。
第1章はアルド・モーロの視点で、誘拐されるまで。
政情などの背景が描かれます。
第2章は内務大臣コッシーガ(ファウスト・ルッソ・アレジ)、第3章はローマ教皇パウロ6世。
前者は政権の中心人物でかつ事件解決に向けて捜査などの陣頭指揮を執り、後者はキリスト教指導者(かつ政権与党の密接な関係者)としての立場から事件解決に向けての行動を執った。
この第2~3章は、いわば事件の「外側」から描いた部分で、サスペンスドラマで頻繁に描かれる立場といえましょう。
通常のサスペンスドラマとほぼ同様なので、面白いといえば面白いのだけれど、まだるっこしいも言えるかしらん。
ここまでが前編。
つづく後編、第4~5章は、事件の「内側」から描くもので、第4章・犯行グループの女性メンバー・アドリアナ(ダニエーラ・マッラ)
からの視点。
このエピソードが時系列的には最初期からで、シングルマザーが社会変革に燃えてグループに加わるも、徐々にグループ内部の結束が弱まっていく様子などが描かれ、興味深いです。
第5章はモーロの妻エレオノーラ(マルゲリータ・ブイ)。
前半にも少し顔を見せるが、モーロ誘拐後のエピソードなので、被害者家族として憔悴しながらも、気丈夫に振る舞うようすなど、マルゲリータ・ブイをキャスティングしただけのことがあります。
6章は、事件の結末。
ここは特定の視点はなく、いわば監督の視点。
仕掛けが施されており、冒頭、コッシーガほか政府・党の重要人物が病室を訪れるシーンが撮られており、事件の顛末を知っているであろうイタリアの観客は、ある種、疑念のようなものを抱いて観ることになる。
(日本の観客でも、事件の顛末を知っていれば、そうなるのだけれど、わたしは知らなかった(か忘れていた)ので、そうはならなかった)
誘拐事件の結末は・・・
まぁ、事実ベースの映画なので、調べればわかることなので、ここでは省略。
この6章に続くエピローグで、事件後の関係者の実際の映像が用いられているのだけれど、「もし事件の結末が、あれではなかったならば、現在のイタリアは・・・」という監督の思いが込められているように感じました。
5時間40分の超長編ですが、それほど長く感じないのはテレビドラマのような章仕立てにしたことによるでしょうが、同じ時点を繰り返し見せられるので、「ありゃ、またか」と思ってしまうのと、テレビ的なので重厚さが欠けてしまうデメリットもありました。
視点を変えての繰り返し描写を省いての数珠繋ぎ、3時間ぐらいに収まっていればよかったかなぁ、というのが個人的感想です。
ベロッキオ監督が考える誘拐事件
映画の本編の内容に触れる前に説明。
まずこの作品は前編・後編とあり、前編が1〜3部作で成り立ち、後編は4〜6部作という構成だが、モーロの目線、妻エレオノーラの目線、アンドレオッティの目線、ローマ教皇の目線、犯人である極左テロリストの赤い旅団の目線など、ベロッキオ監督が考える事件当時はきっとこうだったに違いないという展開からストーリーがはじまる。
実際の事件の内容とは異なる。
映画ではモーロ元首相には死刑を宣告し、自ら命を絶ち泥沼に遺体を遺棄したという声明文が届いたのをきっかけに必死で氷が張った沼を捜索するシーンがあるのだが、そのシーンはベロッキオ監督が犯人である赤い旅団との交渉を進めたいがために諜報局が独自に動いたニセモノだったとか、実際の事件ではアンドレオッティ率いる政権に対し、赤い旅団は要求していた。
逮捕され拘留されている赤い旅団のメンバーの一員の解放を求めていた。
ところが、マフィアとの闇の付き合いがあるアンドレオッティには、要求を鵜呑みにしては困る内情があった。そのために、テロリストの要求に強気で対応したのが裏目となり、モーロ元首相の死刑宣告が出た日の朝には車の荷台で射殺された。死刑宣告が出てすぐ殺されたが実際の話。
アンドレオッティは政治家生命をかけて自らの保身に走り助けようとしなかったのが正解である。映画では、アンドレオッティをモーロ元首相を助け出そうと邁進したが赤い旅団との交渉決裂の末に救えずと美談化している。
そのあたり、一部フィクションがあり、100%ノンフィクションではない。そこがベロッキオ監督が考えたこうだったら良かったのに〜というストーリー展開で構成されている。だから尺が長い。
55日間に渡る赤い旅団との交渉の日々をベロッキオ監督らしい見解で描き、ラストのモーロ元首相の遺体発見に、現実はこうあってほしかったというベロッキオ監督の思いが340分に凝縮されている。超大作といっても過言ではない。
(オンライン試写会は内容に関係せずネタバレ扱い/長すぎて最初の60分のみ公開)
今年264本目(合計1,356本目/今月(2024年7月度)27本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。
(前の作品 「街の上で」→この作品「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」→次の作品「化け猫あんずちゃん」(明日予定))
この映画は340分とものすごく長く、実際に映画館でも6話構成であるところ1~3話、4~6話でわけて公開しますという映画館が大半ですが(340分はほぼ6時間なので…)、本試写会も趣旨的に180分も340分もできるわけもなく60分、第1話のみ(6章構成になっている模様)のみの視聴になります。よって、わからない点(2話以降で明らかになるであろうことなど)もあります。
内容の趣旨的に、当時のイタリアを取り巻く政治や政治思想等に関することが大半を占めるので(一部、裁判用語等も出てくる)、これらに詳しくないと1話目(この試写会では1話目)からついていけず脱落する方が出てくるのかな…といった印象です。現代世界史はほぼ高校世界史で扱うことはほぼなく、イタリアといえばイタリア統一と第二次世界大戦への参戦、ファシズム等は扱いますが、それ以上のことは扱わないからです。かつ、340分という無茶苦茶な長さが厳しく(インド映画2本分…)、当日どうなるんだろう…といったところです。
ただ、日本でこうした本格派のイタリア映画が放映されることは少なく(イタリアの公的機関が後援しているのかな?)、長いことは承知の上で(前半後半上映する前提でも180分だし、まして1日通しでみた日には腰をぶっ壊しそう)見る方にはおすすめでしょうし、かなり人を選ぶかなといったところです。
採点上特に気になる点はないのでフルスコアにしています。
映画の特性上、すべてを見たわけではないし(そもそも見られない)、投稿すべきかとは悩みましたが、「こうした知識があるとみるときに有利だろう」という情報提供の意味合いで書きました。
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