「ベロッキオ監督が考える誘拐事件」夜の外側 イタリアを震撼させた55日間 雨雲模様さんの映画レビュー(感想・評価)
ベロッキオ監督が考える誘拐事件
映画の本編の内容に触れる前に説明。
まずこの作品は前編・後編とあり、前編が1〜3部作で成り立ち、後編は4〜6部作という構成だが、モーロの目線、妻エレオノーラの目線、アンドレオッティの目線、ローマ教皇の目線、犯人である極左テロリストの赤い旅団の目線など、ベロッキオ監督が考える事件当時はきっとこうだったに違いないという展開からストーリーがはじまる。
実際の事件の内容とは異なる。
映画ではモーロ元首相には死刑を宣告し、自ら命を絶ち泥沼に遺体を遺棄したという声明文が届いたのをきっかけに必死で氷が張った沼を捜索するシーンがあるのだが、そのシーンはベロッキオ監督が犯人である赤い旅団との交渉を進めたいがために諜報局が独自に動いたニセモノだったとか、実際の事件ではアンドレオッティ率いる政権に対し、赤い旅団は要求していた。
逮捕され拘留されている赤い旅団のメンバーの一員の解放を求めていた。
ところが、マフィアとの闇の付き合いがあるアンドレオッティには、要求を鵜呑みにしては困る内情があった。そのために、テロリストの要求に強気で対応したのが裏目となり、モーロ元首相の死刑宣告が出た日の朝には車の荷台で射殺された。死刑宣告が出てすぐ殺されたが実際の話。
アンドレオッティは政治家生命をかけて自らの保身に走り助けようとしなかったのが正解である。映画では、アンドレオッティをモーロ元首相を助け出そうと邁進したが赤い旅団との交渉決裂の末に救えずと美談化している。
そのあたり、一部フィクションがあり、100%ノンフィクションではない。そこがベロッキオ監督が考えたこうだったら良かったのに〜というストーリー展開で構成されている。だから尺が長い。
55日間に渡る赤い旅団との交渉の日々をベロッキオ監督らしい見解で描き、ラストのモーロ元首相の遺体発見に、現実はこうあってほしかったというベロッキオ監督の思いが340分に凝縮されている。超大作といっても過言ではない。