「コロナ禍、不要不急とされた人たちのリアル。」東京組曲2020 m_satodaさんの映画レビュー(感想・評価)
コロナ禍、不要不急とされた人たちのリアル。
この映画は、コロナ禍の記録、セミドキュメンタリーだ。
登場するのは、医療従事者でも、飲食店や宿泊業ではたらく人でも、政治家でもなくて。
俳優たち。不要不急とされていた人たち。
たった3年前。
緊急事態宣言でだれもが「何が起こるのか」「どうなるのか」がわかっていなかった。
不要不急だった映画の世界。映画館は閉まっていた。
多くの映画の制作はストップした。
本作を監督した三島氏も、予定されていた撮影がストップしたという。
そこで「この状況を記録しなければ」と本作が発案されたそうだ。
三島監督は、ワークショップなどで一緒になった役者たちに声をかけ、
本作の制作を始めたという。
彼らがコロナ禍で何を感じていたのか。それがスケッチされた。
初めての主演作の公開が延期になった人。
淡々とクリームチーズを作る人。
家族4人、家の中で密になり、子育てで行き詰まる人。
親友とリモートで話すも、より孤独を感じてしまう人。
副業をリモートで続ける人。
親からの心配の電話にイラつく人。
不安で駄目だと思いつつ、実家に帰ってしまう人。
だれもが、分断されていると感じていたあのとき。
それが丁寧に記録されている。
この映画を見ると、あの頃の自分を間違いなく思い出す。
ネタバレになるが、映画の最後で、「だれのものともわからない泣き声」を登場人物は耳にする。
三島監督が2020年4月、眠れぬ夜に耳にした泣き声に着想を得たそうだ。
松本まりかさんが演じたその声を聞いた登場人物の「素の反応」を撮影したという。
そこには優しさがあったように思う。
だれもが自分のことで精一杯で、不安で。
でも「だれの声かもわからない嗚咽」を耳にして、心が動いている。
他者への優しさがそこにある。
それがあれば、大丈夫だ。人は立っていられる。
いつかコロナ禍も風化するだろう。
でもこの映画の中にそれが遺される。
ただの記録として、だけではなく、そこで見つかった大事なものと一緒に。