「黒柳徹子はまさにレジェンド」映画 窓ぎわのトットちゃん 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
黒柳徹子はまさにレジェンド
言わずと知れた黒柳徹子のベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」の映画アニメ化作品でした。原作の方はまだ自分が子供の頃に出たものでしたが、これまで未読。黒柳徹子の子供の頃の話を小説にした作品で、自由が丘にあった自由な気風の小学校を舞台にした物語であることくらいの知識で観に行きました。予告編を観た感じでは、絵柄も優しい感じで、セリフから受ける印象も極々子供向けの作品であり、普通の小学校では受け入れきれない奔放なトットちゃんこと徹子少女を受け止めてくれた、極めて現代的な学校を巡る話だと思っていました。
しかし実際に観てみると、当初の予想よりもかなり奥深い話でした。昭和8年生まれの黒柳徹子の小学校時代の話であるため、トットちゃんが小学校に入学したのが対米戦争開戦直前の昭和15年。既に対中戦争は10年近くに及んでおり、欧州では第2次世界大戦の火蓋が切って落とされている時期でしたが、東京はまだまだ平和な様子で描かれていました(実際にそうだったのでしょう)。翌16年12月に対米開戦、トットちゃんの父親が「これからは(英語が使えなくなるので)パパ、ママではなく、お父様、お母様と呼ぶように」とトットちゃんに言った場面が出て来ますが、以降戦況が深刻になる毎に東京の街の風景もどんどん変わっていく様子が描かれていました。そして昭和20年の敗戦直前まで描かれて本作は終わりましたが、トットちゃんが通ったトモエ学園小学校も空襲で焼けてしまうという、なんとも悲しい物語でした。
そうした時代状況の描写とともに涙腺を緩ませたのが、トットちゃんと同級生の泰明ちゃんとの交流。小児麻痺で半身の自由が利かない泰明ちゃんを、トットちゃんが木登りさせたり、運動会で二人三脚をしたりと、それまで家に籠って本ばかり読んでいた泰明ちゃんにいろんな体験をさせるトットちゃん。しかし生来の虚弱体質には勝てず、縁日で買ってきたヒヨコのように夭逝してしまう。
子供向け作品だと思って油断していた自分としては、戦争と言う社会状況と併せて、あまりに冷酷な現実をまざまざと見せつける本作に、不意を突かれて動揺するとともに、涙してしまいました。
話は変わりますが、最近観た「ゴジラ-1.0」や「ほかげ」は、終戦直後のどん底の時期を描いた作品でした。焼け野原になった東京の街で、飢餓とか貧困にあえぐ人々の苦悩が見て取れる作品であり、それはそれで辛いものがありました。ただ本作のように平和な日常から、戦争に突入して社会が悪い意味で統制されて行き、さらには空襲を受けて学校や街が焼けてしまうという喪失感は、想像するだに恐ろしくも虚しいものであるということを実感しました。昨年来、ウクライナやパレスチナで戦乱があり、我々も報道を通じて現地の状況を垣間見ていますが、当地の方々の苦労や心痛と言うのは、想像を遥かに上回るものなのだろうと思われました。
そういう意味では、非常に時宜を得た作品だったのではないかと感じたところです。
それにしてこうした体験をした黒柳徹子が現役でテレビに出演し続けているというのは、本当にすごいことだなと思わざるを得ません。そんな訳で、内容の意外性に乾杯ということで、評価は★4.5とします。