劇場公開日 2023年12月8日

「アニメーションだからこそできた名作」映画 窓ぎわのトットちゃん コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アニメーションだからこそできた名作

2023年12月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

トットちゃん視点からの想像(イマジネーション)の世界を、アニメーションだからこそ映像化できていました。
濃密な映像表現、ただ表面的に観ただけではスルーしそうな重厚な描写。

発売当時のベストセラー&ブームの折には、黒柳徹子さんの更なる人気のアップとともに、自由かつ一人ひとりの個性に合わせた学校教育の在り方に注目がいきました。
特に音楽のリズムによる心の育成(リトミック)や、廃車になった電車を利用した教室など、トモエ学園を理想の学校化するあたりが話題となったような。
この映画は、そんな教育も扱いつつも、芯は「命の尊さ」を見せていたのかなと。
ひよこや同級生の死、戦争に突き進む世の中。
命を慈しむ両親やトモエ学園の先生たち。
トットちゃんが、生きることを学び、成長していくことをしっかり描いてありました。

ただ、説明的なセリフを排除して、画として"命を軽んじる世の中"や、"子どもにまともに食事を与えられない国"を見せるにとどまったため、当時の世相に関する知識がないと何を見せられているかは理解しにくそう。
たとえば、トットちゃんのお父さんがいる楽団の指揮者は、ドイツを追放になったユダヤ系指揮者で、のちのNHK交響楽団を作ったローゼンシュトック。
戦争が激化していくうち、大井町線の駅員さんはおじさんから女性に代わったのは、おそらく徴兵されたのであろう。
そういうことも一切説明されていない。

映画としての「格」や「気品」を備えるには、観る側に知識、学力、経験、リテラシー、想像力、敏感なセンサー、感情の豊かさが基本的に必要。
観た人間の中身が満たされて、その引き出しの深さ、バリエーションの豊富さがないと、
感情が揺り動かされることがない。
字幕の文字色や大きさで「はい、ここ笑うところ」「ここ泣くところ」と誘導されるTVバラエティー番組やYoutubeなどに慣れた人々や、そもそもの経験値が少ない子供にとっては、後半について「なんだかよくわからない」と思ってしまうかもしれません。

理解できれば、(今の時代を含めた)子どもの貧困を放置し、飢えて泣く子どもを不謹慎と叱り、戦争を喜ぶような「大人の醜さ」と同時に、子どものひたむきさ、純粋さも見えてくるのですが。

『漁港の肉子ちゃん』『この世界の片隅に』『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』などの名作に近しい感触がありました。

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コージィ日本犬