「小林先生」映画 窓ぎわのトットちゃん ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0小林先生

2023年12月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

「その前に先生と少しお話をしないかい?」

ご存知、女性テレビ司会者の第一人者にしてテレビ草創期の生き証人、90歳を過ぎた現在も元気いっぱいの黒柳徹子さんの物語。

とてもよかった。同時に、とてもつらかった。
昭和15年(1940年)、お転婆が過ぎて尋常小学校から自由が丘のトモエ学園に転入することになった"トットちゃん"(声:大野りりあな)。両親は学校に馴染めるか心配だったが、校長である小林先生(声:役所広司)の独自の教育方針のもと、トットちゃんはすくすくと育っていく。やがて、トットちゃんは小児麻痺の同級生・ヤスアキちゃんと出会う。
なんてったって小林先生がいい。その教育方針は現代から見ても信じられないもので、これを今から80年前に実践していたというのだから驚きだ。この小林先生との出会いがなければ、トットちゃんはただの問題児として片付けられてしまい、ひいてはその後のテレビの歴史も大きく後退していたかもしれない。
だが一方で、これは「小林先生だからこそできたこと」だった。実際にはこの裏に何十人、何百人のトットちゃんがいたが、残念ながら一個人にできることは限られていた。現在だってそうだ。だから僕は安易に「小林先生を見習え、トモエ学園を見習え」なんて口が裂けても言えない。更に言えば、黒柳家の両親も含め、トットちゃんの周りの人々は当時としてはかなりの富裕層であり、そして理解のある大人達だった。実際、劇中でヤスアキちゃんのお姉さんは英国に留学しており、そこで世界を平和にするかもしれない「ある発明」のことをヤスアキちゃんに伝え、それをトットちゃんがヤスアキちゃんから聞く描写がある。だからトットちゃんはトットちゃんでいることを許されたのであり、そもそもそういう機会すらほとんどのトットちゃんには与えられなかった。このことを思うとき、心が温まると同時に絶望感をおぼえた。
元々の画がみやすく、また登場人物も実際の声を担当された方に寄せた外見であったため抵抗なく観られた。途中、想像の世界では画のタッチが変化し、ここはかなり攻めていて大人しいながらにかなりの意欲作であることが窺える。
本当は話したくなかった。観終わった後、ずっと自分の中にしまい込んでおきたかった。自分の中でのいい思い出が他人の野次に汚されるのは嫌だったし、これだけの作品を自分の野暮な表現で染めてしまうのも気が引けた。だがそれ以上にこの作品がただのOne of Themとして埋もれてしまうことの方が僕は我慢ならなかった。だから恥を忍んで書く。
改めて、黒柳徹子さんと声の皆様をはじめ、製作に携わった全ての方々、とても素晴らしい作品を観せてもらいました。ありがとうございました。

トモエ学園、いい学校。入ってみても、いい学校。

ストレンジラヴ