「意外と再現度高し。物語にもグイグイ引き込まれる!あともう少し…もう少しお金をかけてくれたら…!」はたらく細胞 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)
意外と再現度高し。物語にもグイグイ引き込まれる!あともう少し…もう少しお金をかけてくれたら…!
何気なく見始めたアニメが意外と面白くてハマってしまったのだけれど、実写映画化されると聞いたときは「あー、はいはい、勝手にやっててください。あたしゃ観ませんよ」と冷淡な態度を取っていた(笑)。
基本的に漫画、アニメの実写化にはどうしても冷淡になってしまう。
結局は理想(漫画、アニメ)と現実(実写)のギャップにガッカリさせられるのがオチだからである。
だから本作に関してもガン無視を決め込んでいたのだけれど(笑)、いざフタを開けて公開してみると結構好評だという。
マジか…と思って予告編などチェックしてみると、阿部サダヲと芦田愛菜の体の中を描くというオリジナル設定で、なんだか面白そうな感じがする。
ずっと気にかかっていたところNetflixで配信されたので意を決して観てみたら、なるほど面白い!
阿部サダヲと芦田愛菜をキャスティングしたことが最大の成功要因かも知れないけれど、永野芽郁の赤血球も佐藤健の白血球も意外と再現度が高く、その他の細胞キャラたちもいい味出している。
終盤、阿部サダヲと芦田愛菜の物語がお涙頂戴になってしまって、ちょっとあざといと思いつつも(笑)、二人とも芝居が上手いのでグイグイ引き込まれてしまう。
37兆個の細胞たちが働くあの奇妙な和洋折衷の体内世界もかなりうまく作り上げられていたと思う。
ただ…ただ、どうしても時折チープなテイストを感じてしまう部分があったのは否めない。
本作は一種の異世界モノであって、壮大な異世界をどれだけ緻密に構築してみせるかが大事だと思うのだけど、永野芽郁と佐藤健がカラーボールのプールの中(血管の傷口)に浮かんでたり、茶色いモジモジくんたち(ウ○チ)がラガーメンや力士と押し合いへし合いしてるのを見せられると、確かに絵面としては面白いし笑ってしまうのだけど、同時になんだかテレビのバラエティ番組みたいなチープさを感じてしまったというのも事実なのである。
原作の漫画やアニメもギャグ路線が多かったから、敢えてチープなテイストのギャグ路線を狙っていく、というのも一つの方法だとは思う。
本作は全体としてはよくできているので、チープなテイストも敢えて狙ったものとして、気にならない人はそんなに気にならないかもしれない。
でも、自分としては衣装やCG、セットなどにもう少しお金をかけられれば、もっと物語に没入できる作品になったのになんだか惜しいなあ、と思わざるを得ない。
本作は制作費4.5億円+宣伝費3億円=総製作費7.5億円。微妙な金額である。決して少なくはない。日本映画としてはお金をかけている方かも知れない。
でも例えば、三池崇史の実写版『ヤッターマン』なんかは総製作費20億円である。あの『ヤッターマン』ですら(笑)20億円かけているのだ。だから『ヤッターマン』はかなりのおバカ映画で評価も高くないけど(自分は嫌いじゃない笑)、チープな感じはそんなにしないのである。
アメリカではテレビドラマでもビッグプロジェクトならたった1話作るのに10億円以上かけたりするという。
もちろんお金さえかければいいというものではないけれど、我々はわずか1時間程度のドラマに10億円以上かけるようなアメリカの映像作品を知らず知らずのうちに見慣れてしまっているのである。
日本映画の低予算問題というのは根が深いものがあり一朝一夕にどうにかなるようなものではないと思うのだけど、最近は『ゴジラ-1.0』のような、目の肥えたアメリカの観客が目を瞠るようなCGゴジラを、ハリウッドでは考えられないような低予算(といっても総製作費15億円くらいかかってる)で作り上げた例もある。
物量作戦でとにかくお金をかけるというハリウッドの大作主義と違って、限られた予算の中で工夫しながら繊細な手仕事を積み重ねていいモノを作る、というのは職人的、町工場的な日本映画の良さであり強みだとは思う。
自主制作の『カメラを止めるな!』は製作費300万円、同じく自主制作の「侍タイムスリッパー』は2000万円+助成金600万円。どちらも傑作であり、お金をかけなくてもいい映画は作れるという見本みたいなものである。
でも、本作のような壮大な異世界モノはスタッフの工夫や努力だけではカバーしきれない、お金をかけてこそ初めて表現できる部分もかなり大きいのではないだろうか。
なんとな〜く予算不足気味な感じがする異世界って、ちょっと醒めてしまうと思うのは自分だけではないだろう。
漫画、アニメの実写化としてはかなり楽しめた作品だからこそ敢えて欲を言わせてもらうのだけど、あともう少し…もう少しお金をかけたものが観たかった!