劇場公開日 2023年5月19日

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「マイノリティの米国人女性監督による長編デビュー作。その勇気と力量に感服」ソフト/クワイエット 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0マイノリティの米国人女性監督による長編デビュー作。その勇気と力量に感服

2023年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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中国系アメリカ人の母とブラジル出身の父の間に生まれたベス・デ・アラウージョ監督は、2014年頃から短編映画やテレビドラマを手がけ、本作で長編デビューを果たした。脚本執筆のきっかけは、2020年5月にNYのセントラルパークで野鳥観察をしていた黒人男性に対し、白人女性が「脅されている」と嘘の通報をした様子が撮影された動画をSNSで見たことだったという。デ・アラウージョ監督自身も、差別されたり偏見をもたれたりした体験を明かしている。多様性尊重の時流に乗ったとはいえ、いまだに差別される側である有色人種の側から、白人優位社会に物申す意図を込めたクライムスリラーを初の長編映画に選んだ勇気と、資金を調達し完成、公開までこぎつけた突破力にまず感服する。

幼稚園教師のエミリーが、有色人種に不満を持つ白人女性たちを集めてパーティーを主催し、「アーリア人団結をめざす娘たち」というグループを結成するのが序盤。アーリア人について少し補足しておくと、広義にはインド・ヨーロッパ語族の人々の総称だが、ヒトラー支配下のナチスドイツではユダヤ人を除いたコーカサス(白色)人種と定義された。エミリーが持参したパイにハーケンクロイツの切れ込みを入れていたり、メンバーの一人がふざけてナチス式敬礼を真似したりしていることからも、彼女たちがナチス流の白人至上主義に心を寄せていることがうかがわれる。

インテリを気取るエミリーが自分たちの思想を広めるやり方として「表面はソフトに/ひそかに(quietly)心に入り込む」と皆に説くのだが、映画の後半、実際に彼女たちがとる行動はラウドでハードで暴力的な方向に展開していくのだから、なかなかに皮肉の効いたタイトルだ。

全編ワンショット&リアルタイム進行の仕掛けでエスカレートしていく緊迫感により、観客もまるでその場に居合わせているかのような感覚に圧倒されていく。演者たちと撮影監督の貢献も含め、約90分の加速するスリルを生み出した力量にも驚嘆させられる。これは好みが分かれるところだろうが、不穏さをあおるBGMはかえって作り手の演出意図が浮かび上がってしまい、BGM無しのほうがこの先に何が起きるのかわからないまま間近で目撃しているような臨場感がより際立ったのではと思った。

高森 郁哉