「泣いた後にモヤモヤが舞い戻る迷作」片思い世界 somebukiさんの映画レビュー(感想・評価)
泣いた後にモヤモヤが舞い戻る迷作
「カルテット」「ファーストキス」などの話題作を生み出した脚本家の坂元裕二と土井裕泰監督の「花束みたいな恋をした」以来となるタッグの作品。
自分の中で映画は二つに分かれる。
見終わった後の余韻で面白さや魅力が増す作品と、増さない映画。
本作は後者となった。
おそらく作品全体として描きたかったテーマはいままで想像したことのない切なさ中に溢れる優しい世界であり、魅力的だった。
映画館で見終わった後の満足感は高く、いい映画だったと感動していた。
合唱のシーンでは、これはやられた!って思うくらい歌詞が突き刺さり、泣かせに来てるなってわかりつつも泣きそうになった。
主演は今をときめく演技は女優の「広瀬すず」「杉咲花」「清原果耶」が同じスクリーンで見れるというだけで幸せでもあった。
あのシーン凄かったな、あの世界すごいな、タイトルはこういう意味だったのか!と余韻に浸っていると、少しずつ「あれってどうなったっけ?」「あれ、少しおかしくない?」など引っかかる部分やツッコミたくなってしまう部分が表れてきた。
そこから自分の中で「片思い世界」は良い映画から、ひっかかる映画、違和感にあふれた映画に変わってしまった。。。。
ここから先はネタバレを含めて感想を書きます。
冒頭いきなり、違和感に襲われた。
おそらく事件が起きたシーン、そこから3人の女性の日常は描かれるが、どうもおかしい。
日常に存在するものの、みんなをスルーしている?いや、むしろ透明人間のように気が付かれていない?
バスの中で男性のスマホをのぞき、「アホ毛のくせに」ってシーンで、「あ、これ死んでる?」と気づいた。
青春恋愛ものの片思いと思っていたら、亡くなった者から生きている人へ片思いだった。
頭を叩かれたかのよくな衝撃を受けるとともに、これからどうなるの?っという今後の展開へ期待感に溢れていた。
今まで描かれていた「幽霊」や「死後の世界」とは本作は大きくことなり、死んだ後の世界は生きているレイヤーと異なるだけで現実世界同様時間が過ぎるという設定は見事だった。
3人の亡くなっているとわかっているけど、ちゃんと生活するのいう姿勢にぬくもり感じたし、細かい日常例えば、身長が伸びる、お弁当を作る、勉強する、仕事するなどの日常を丁寧に描くことでより、「生」を感じさせる作りも良かった。
今振り返っても、それぞれが抱えていた「思い」におけるシーンも考え深いし、特に母と娘を描いた辛く切ないシーンには思い出すだけで悲しくなる。あの西田尚美さんの演技は素晴らしかった。
各シーンを切り取ると、全て良いシーンだったと思う。いい映画である。
ただ、全てをつなげた一作とした際に、無視はできない違和感だらけであることも否定はできない。
※揚げ足とりをしたいわけではないけど、どうしても気になる。
まずは、生活する中の違和感。
現実にはいるけど生きている人からは見えていない、そして触れられない、話せないという設定がある。お腹が空くの良いけど、どうやってスーパーで物を買っていたのか?
盗んでいたってことになるのだろうか。
そして、物に触れることはできるけど、現実の物は動かないという軸。
分かるようで分からない説明だった。
じゃあ、動かしたものを現実世界でまた動かしたら、それは3人の世界に影響しないのか?
次に、人間関係。
3人のそれぞれの個性や事情を描いてはいたものの、広瀬すず演じる美咲は家庭の問題がかなり影響している人物であるが、説明セリフでしか説明されていない。なぜそうなってしまったのか、今のご両親はどうなっているのか?などのシーンとしての背景が欲しかった。
12年の時が経つが、今になって動き出すこと出来事があまりに多過ぎる。
ちょっとした説明セリフだけでは足りない内容があまりに多かった気がした。
そして、ラジオの声について。
パンフレットに書かれていた坂元裕二さんのコメントでただの日常を描くだけではダメだと、アニメ同様展開をつくらないとって書かれていたのが気になった。
正直、無理やり作りだしたストーリーだったからこそ、中途半端に広げて、回収しない作りになってしまったのではないか?って感じてしまった。
もしかして、あえて描いていないのかもしれない。全てを説明するのは野暮だからと。
そうであるなら、やはり風呂敷は広げ過ぎてほしくなかったかな。
まぁ、いっかとは言えないレベルの話を簡単をみんな軽く納得し過ぎている気がした。
ラジオから聞こえる声、素粒子の話、もしかしたら現実に戻れるかもしれないというSF的な展開はワクワクさせられた。
全員帰れるの?それとも、もしかしたら誰かは残ることになるの?ラジオの声の人は何者なの?って広がる展開に見入っていたけど、ふわふわと終わった。それこそ煙のように消えていった。
そして、家に飾っている写真。
あれは事件がおきた、最も辛い記憶だと思う3人を繋ぐきっかけという意図なのかもしれないけど、事件の日の写真を飾るのはどうなの?あの写真が映るたび辛くなるのは自分だけなのか?
パンフレットを読めば、自分が抱いた疑問が少しでも解消されるのかな?って思っていたけど、残念ながら解消されなかった。
作り手と読め手の違いなのか。
確かに素晴らしい映画だったことは間違いないけど、それと同じぐらい違和感が溢れていたのが残念だった。
もちろん違和感があるけど、それを意識させないくらい圧倒される映画もあるけど、個人的にはそこまではいかない作品だったかな。
作るのかめちゃくちゃ難しい作品だったと思うし、見たことはもちろん後悔していない。
新しい映画を見ることは幸せやし、坂元裕二さんの繊細で柔らかく、でも心に突き刺してくるようなセリフや掛け合いは大好きなので、これから先も新作を見たいと思っている。