劇場公開日 2023年11月10日

「(11/15追記事項あり、末尾参照)ほぼほぼ無条件で推せる、今週おすすめ枠。」法廷遊戯 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0(11/15追記事項あり、末尾参照)ほぼほぼ無条件で推せる、今週おすすめ枠。

2023年11月11日
PCから投稿

今年380本目(合計1,030本目/今月(2023年11月度)12本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))

 さて、今週本命枠に来るんじゃないか(対抗はマーベル?)と思われる一作です(競馬新聞ではないけれど)。

 結論から書けば、「ほぼ無条件で推せる、一部わかりにくい点、問題提起に踏み込みが足りないのでは?と思える点もあるが、大衆映画という観点では極端に引けない」というものです。なお、私は行政書士試験の合格者のレベルです(この映画、すごいことに弁護士の資格を持たれている方が監修されているそうで、きわめて正確に描かれています)。

 映画の趣旨としては「無罪」と「冤罪」のはざまを描くもので、このことは一般常識の範疇でもあり知っている方も多いかなと思いますが、それを問題提起の形で踏み込んで描いた作品は案外多くなく、この点評価は良いかなといったところです。少なくとも法律系映画という観点では2023年、あと1.5か月ありますが、ほぼベストといったところです。

 こうした高度な知識を扱いつつも法律ワードは少な目で見る方を選ばないこと、見た後の感想もある程度は分かれ得てもはっきりとはすること(極端に変な結論にはならない、ということ)等あり、良かったかなというところです。

 以下、採点は以下の通りですが、どうしても資格持ちは気にするので…。
ただ、以下「映画で扱っていない補足的な部分」もあるので参考にしていただければ…。
4.8以上あるので七捨八入でフルスコア切り上げにしています。

 (減点0.1/司法試験の科目について)

 「司法試験は、憲法、行政法、民法、民事訴訟法…を問うもので、年間に~万人が受験し…」という最初の紹介の部分です。

 この中で「行政法」はこの説明だと「行政法」という一つの科目があるように見えますが、ほぼ行政書士試験の「行政法」の科目と重なります。いずれにせよ「行政法」という一つの法律があるのでは「ない」ので注意です(ここは勘違いする方が多い)

 (通常「行政法」と扱われ試験に出るもの) 行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法、ほか個別のメジャーな行政法規(著作権法ほか)

 (減点0.1/「無罪」と「冤罪」のはざまにあるもの)

 どうしてもリアル日本、あるいはこの映画の描き方だとその2つに目が行きがちですが、日本には「免訴」というものがあります。「証拠などに乏しくそれ以上裁判をしても仕方がないので打ち切る」というもので、一般に被告に有利に働きます(ただし例外あり)。

 (例/高田事件/1972年(昭和47年)12月20日(最高裁判例より一部引用))

------
 審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判の保障条項によつて憲法がまもろうとしている被告人の諸利益が著しく害せられると認められる異常な事態が生ずるに至つた場合には、さらに審理をすすめても真実の発見ははなはだしく困難で、もはや公正な裁判を期待することはできず、いたずらに被告人らの個人的および社会的不利益を増大させる結果となるばかりであつて、これ以上実体的審理を進めることは適当でないから、その手続をこの段階において打ち切るという非常の救済手段を用いることが憲法上要請されるものと解すべきである。
------

 また、次のような判例もあります。このことは何も戦後の混乱期でもなく、日本において治安維持法が制定されていた当時、違法に処罰された人々について何ができるか?を示したものです。

------
本件に適用される旧刑訴法等の諸規定が,再審の審判手続において,免訴事由が存する場合に,免訴に関する規定の適用を排除して実体判決をすることを予定しているとは解されない。これを,本件に即していえば,原確定判決後に刑の廃止又は大赦が行われた場合に,旧刑訴法363条2号及び3号の適用がないということはできない。

再審の審判手続につき,これと別異に解すべき理由はないから,再審の審判手続においても、免訴判決に対し被告人が無罪を主張して上訴することはできないと解するのが相当である。
------

 ↑つまり、国家的な救済により免訴が確定すると、それを不服として無罪を主張して上訴(控訴、上告をまとめて言う語)はできない、というものです( 平成20年3月14日/いわゆる「横浜事件」)。

 ※ 国家賠償法に基づいて違法な取り調べ他について別途裁判を起こせるか?という「狭間」「補償の谷間の問題」と呼ばれるもの。

 実はこのように「国によって強制的に裁判を打ち切られると何もできなくなる」というケースが存在し(ただ、レアケースではありますが)、その点にも多少は触れていただければ…といったところです。

 ------------------------------------------
 (追記/減点なし/参考/映画内の途中で出てくる人物に証言拒否権はあるか?)

 ・ 結論から言うとありません。民事と刑事として事情が異なります。刑事事件は「罪なきものを罰せず、罪あるものを逃さず」という立場にたつため、一定の制限列挙にあがるもの以外に証言拒否権はありません。

 (記者証言拒否事件/昭和27年8月6日)

 ---------
 …刑訴149条に列挙する医師等と比較して新聞記者に右規定を類推適用することのできないことはいうまでもないところである。それゆえ、わが現行刑訴法は勿論旧刑訴法においても、新聞記者に証言拒絶権を与えなかつたものであることは解釈上疑を容れないところである。
 ---------

 要は「有罪無罪を決めるにあたって最低限保障されるもの以外は協力せよ」ということです。

 (参考/刑事訴訟法第149条)

 -----------
 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在った者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。
 -----------

 ↑ 上記のことは類推解釈されないから、行政書士や司法書士には拡大解釈も類推解釈もされない。

yukispica