「生徒の未来の夢や教師の責任から逃げられた?」逃げきれた夢 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
生徒の未来の夢や教師の責任から逃げられた?
逃げきれた夢という題名。謎でした。予告編で光石研演ずる主役の定時制高校の教頭は認知症になって定年を待たないで退職する決意を家族に話したということはわかるのですが、誰の夢?なにから逃げた?執拗に追いかけられる夢を見て、逃げきれたということ?
二ノ宮隆太郎監督の映画を観たのは、萩原みのり主演作「お嬢ちゃん」に続き2作目。
ヒューマンドラマですが、テレビやラジオでは放送事故になりかねないスローな間の長いセリフ。
この映画に対するわたしの一方的な感想としては、定時制高校の教師は大変だなぁとリスペクトを感じつつも、教え子の人生に対する責任を全うすることが出来ず、自分の家庭も思い描くような未来を作れなかった男がアルツハイマー病になったことから記憶も曖昧になり、現実逃避の言い訳ができて、教え子の夢から逃げきれたと安堵しているんじゃないかな?といったちょっとイジワルな感想を持ってしまいました。お金を払い忘れ、お金持っているのに、また財布に戻してすぐに払わない。教え子の彼女が立て替え、お礼しなきゃねの一言に期待してしまった彼女の複雑な思いの吐露にビビる周平。
若い二ノ宮監督の視線はとても鋭いとおもおますが、同時に人生に対する虚無感、無常感がつよくて、かなりつらい映画でした。
役者さんの演技はベテランも若手も完璧でよくまとまっていました。
博多(小倉)弁がよくわからなくて、蕎麦屋のアルバイトの彼女のセリフがかなり重要なのに肝腎なセリフの意味がよくわからず。そのへんは字幕で解説を入れたほうが親切じやないかと思いました。視聴覚教室にポツンとひとりだけいた女の子が自分の本心を正直に言ったら、先生はどこまでも親身になってくれる?見たいなセリフがあって、それが一番ひっかかりました。教師に対する猜疑心や諦めが強くて、同じ定時制高校を描いた作品として、坂上二郎の学校の先生とは対極に位置する虚無感が全体を被う映画かと。
さらに、定年を目前にした周平とまだ40代と思われるチャーミングな妻(坂井真紀)のリアルな演技はかなりショックでした。パート先の社長とセフレになっているとしか思えない開き直った態度に周平がたじろぎながらも、家族を続けようとする。
このへんの若い二ノ宮監督の視線はとても残酷で、ダンサーインザダークのラースフォントリアー監督に近いものを感じでしまいました。ある意味老成していて怖い。
火曜日の武蔵野館で鑑賞しましたが、同列のE-5に二の腕にタトゥーを入れたスレンダー美女がいて、前半は大きなあくびを何度もしていましたが、松重豊が出現するとガハハーと笑っていました。終わってみると、彼女の鑑賞態度が正解だったような気がしてしまいました。
お先真っ暗なのに、新たな人生の出発を応援するみたいな予告編にもかなり違和感を感じました。配役などから若い人が好んで見る映画ではないので、ターゲットとなる中高年には一定の幸せな人を除いてかなり身につまされる映画だと思います。
エンドロールに曽我部恵一の名前。音楽(劇伴)なかったから、最後の単音ピアノのみ。うーん、ロックギタリストもこうするしかなかったのはよくわかる。曽我部恵一、すっかり活動拠点を映画にシフトしています。