「哲学の授業が子供たちにもたらすものとは?」ぼくたちの哲学教室 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
哲学の授業が子供たちにもたらすものとは?
北アイルランドの首都、ベルファストにある公立学校、ホーリークロス男子小学校で実践されている哲学の授業風景と、背景にある社会的な問題にフォーカスした本ドキュメンタリー。ベルファストと言えばケネス・ブラナーが監督した同名の劇場映画が描いたように、街を分断するカトリック教徒とプロテスタントの長い対立が市民にもたらした悲劇を想起させる。
本作のベースにもそれがあって、子供たちに対して「怒りを怒りで返すことは無意味」と説き続ける先生の切実な願いが、画面を通してひしひしと伝わってくる。哲学教室の担当で校長でもあるケヴィン・マカリーヴィーの教え方は徹底して子供たちの視点に立っていて、「やられたらやり返す」と答える少年と、「そんなこと続けているともっと酷いことになる」と反論する少年とを対話させることによって不戦の意味をじんわりと浸透させていく。そのプロセスが実に微笑ましく感動的で今日的なのだ。
根底にあるユーモアが生々しいテーマをソフトに包んでいる。マカリーヴィー校長はスキンヘッドのエルヴィス・ファンで、鼻歌混じりで学内を歩いている。校長室にはエルヴィスの人形が飾られている。そんな校長を"ボス"と呼ぶ生徒たちは、毎朝、登校時に出迎えてくれる校長と嬉しそうにハグし合っている。厳しい現実と笑いが台頭に渡り合っているところが本作の最大の魅力だ。とにかく、子供たちの笑顔を見ていると、絶対に彼らを守らなくてはいけない。そう思わせるのだ。
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