「物語が多軸」ブルックリンでオペラを 稲浦悠馬 いなうらゆうまさんの映画レビュー(感想・評価)
物語が多軸
映画「ブルックリンでオペラを」
# 原題
SHE CAME TO ME が原題。「彼女が降ってきた」的な。
# 内容
「ブルックリンでオペラを」といういかにもオシャレっぽい邦題からはカジュアルな作品をイメージしていたが中身は全然違った。
むしろオペラはアクセントであって人間ドラマが主演だったように思う。
# 多軸の物語
なかなか意図がつかめない映画というものがある。物語が何のテーマでどこに向かっているのか分からない映画。悪い意味ではなくそういう映画。これもそんな映画のひとつだ。
物語中、多くの軸が同時に進んで行くので本筋を捉えることができない。というより本筋なんていうものはないのかも。
そんな映画は好きだ。Marvelとかヒーローものの映画ならまあ話の大筋はだいたい観客にも分かり安心して楽しめるのだが、決して親切ではなく、観客が考えながら観なければいけない映画の方が見応えがある。
# 物語
既婚者で作曲者の男は新曲ができずに悩んでいるが、ある日BARで出会った女船長と不倫をする。そして天啓を得て新しいオペラを書き、それがヒットを飛ばす。
だが話は終わっていなかった。偶然そのオペラ公演に来ていた女船長は男を追いかける。彼女は恋愛依存症だ。
男に「治療した方が良い」と忠告された女は精神科医を訪ねるが、その精神科医は偶然にも男の妻であり、そこで不倫が発覚する。
それと同時にもうひとつの物語が進んでおり、精神科医である妻は家にお手伝いを呼んでいるのだが、そのお手伝いの女性の娘と、自分の息子が恋人同士であることを知ってしまう。
精神科医の妻の息子と、そのお手伝いの娘は18歳と16歳であり、もし性的な関係を持ったのであれば法に違反する。そのことを知ったお手伝いの女性の夫的な人物は、娘のボーイフレンドを告発しようとするのだ。
そのことを知った作曲家の男は二人が罪を免れるため、他の州で二人を結婚させようとするのだが、そこで助けを求めたのがかつての不倫相手の女船長であり、一向は希望のための船出をするのであった。
全体を見るとなんとも複雑な関係性が出来ながら物語が進んでいく。
# 不倫
作曲家の男の妻は美しい。だがそれほど美しくない女と不倫関係に落ちる。ここが普通の筋書きとは逆だと思った。
# オペラ
作中では絶賛されているオペラだがオペラに合わせて「私は恋愛依存症なの」とか言うのでギリギリコメディにも見えた。
# 16歳と18歳
16歳の女と18歳の男。
この年齢の男女が結婚すると統計上はものすごく離婚率が高いらしい。
だが16歳の彼女は言う。
「統計上は少しはうまくいく可能性がある」と。
男は女に永遠の愛を告白する。しかもオンラインビデオをしながら。とても良いシーンだった。
# 脱出劇
さっきも書いた通り最後には女船長の船に乗って、16歳と18歳のカップルを救うためにアメリカの他の州まで脱出をするのだ。
多くの軸を持つ物語が、後半集約されず、1本筋にならないままで終わってしまう作品も世の中にはあるが、本作はなんとか物語が1本の道に集まるのだった。