「事実は小説よりも奇なりとは言うが」コカイン・ベア 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
事実は小説よりも奇なりとは言うが
【イントロダクション】
1985年、アメリカのジョージア州で起きた実話を基にした動物パニック。コカインを摂取して凶暴化した熊が、次々と人々を襲う。実際の事件では、熊はコカインの過剰摂取により死亡したという。
監督・製作には、女優として活躍しているエリザベス・バンクス。脚本にジミー・ウォーデン。
【ストーリー】
1985年、アメリカ合衆国ジョージア州。麻薬密売人のアンドリュー・C・ソーントン2世
は、飛行機からコカインの入った大量のバッグをチャタフーチーのブラッド山に投下し、自身もパラシュートで降下しようとしていたが、頭をぶつけて落下死してしまう。
遺体はテネシー州ノックスビルで発見され、警察はコカインの行方を探していた。一方、チャタフーチー国立森林公園では、アメリカグマが投下されたコカインを摂取して凶暴化=コカインベア化し、ハイキングに訪れていた男女に襲い掛かっていた。
ソーントンの訃報を受けて、組織のボスであるシド(レイ・リオッタ)は、息子のエディ(オールデン・エアエンライク)と部下のダヴィード(オシェア・ジャクソン・Jr)に回収を命じ、途中襲ってきたコカインの隠し場所を知るチンピラグループの1人と共に森へ侵入した。
一方で、中学生のディーディー(ブルックリン・プリンス)とヘンリー(クリスチャン・コンヴェリー)は、秘密の滝の写生にチャタフーチーの森を訪れていた。2人は森に投下されたコカインの残骸を発見した直後、興奮状態になったコカインベアに襲われる。
ディーディーの母、サリ(ケリー・ラッセル)は、森林警備隊員のリズと野生動物管理官のピーターと共に、2人の行方を追って森に入る。
様々な人物が森へ入って行く中で、コカインベアは依存症状により、更なるコカインを求めて森を彷徨っていた…。
【感想】
実話を基にしているとはいえ、いくらでも上質な動物パニックに出来そうなものだと思うのだが、少々コメディに振り切り過ぎている印象。
熊の親子の可愛さに免じて少々点数をオマケしても、この点数が精々であろうか。
メインとなる熊のCGこそ出来が良く、思わぬところで可愛らしい一面が垣間見えたりと、そうした描写は評価出来る。
しかし、とにかく登場人物のどれもが魅力に乏しく、それ故に「誰がいつ何処で襲われるのか?」という緊張感が生まれなかった。更には、人間同士でもいざこざを抱えており、熊の襲撃とは関係のない部分でも尺を使っているのでより一層テンポ感を悪くしている。
エディの奥さんを喪った悲しみの件などは特に不要に感じられ、クヨクヨしつつ森に入って行くので、こちらのテンションも今一つ上がらない。おまけに、コカインの行方を追う刑事との撃つ・撃たないのやり取りは、仲間の刑事の裏切り等、完全に熊とは関係ない展開なので、キャラクターに興味を抱けていない状態の私にはストレス以外の何物でもなかった。
ゴア描写こそ中々の気合の入りぶりではあるのだが、その持ち味を存分に活かす意味でも、シリアスな話運びの方が適していたのではないかと思う。
【総評】
嘘のような実話を基にしているというのは、まさに“事実は小説よりも奇なり”といったところだが、作品全体を漂うコメディチックなやり取りには乗れず、最後まで“作品とは距離のある位置からの傍観者”といった視点で終わってしまった。
熊のCGは出来が良く、独特な可愛さも放っていて魅力的ではあったが、もっとシリアスで上質な動物パニック映画を期待していただけに、コメディに振り切り過ぎていたのは残念だった。