「本作の背景にあるものは、何とショボいものでしょうか。」おまえの罪を自白しろ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
本作の背景にあるものは、何とショボいものでしょうか。
ある政治家の孫娘が誘拐されて、犯人からの要求は身代金ではなく、「政治家が犯した罪の自白」をしろという究極の選択を迫られるという真保裕一のサスペンス小説『おまえの罪を自白しろ』が、『アイ・アム まきもと』(2022)『謝罪の王様』(2013)の水田伸生監督によって映画化されました。
守るのは命か、政治家としての名誉か。政治家の生き方や本心が鮮明に描かれます。
●ストーリー
政治家一族の宇田家の次男・宇田晄司(中島健人)は建築会社を設立するも倒産し、
やむなく政治スキャンダルの渦中にいる国会議員の父・宇田清治郎(堤 真一)の秘書を務め、煮え切らない日々を送っていました。
その頃、清治郎は「上荒川大橋建設にあたって総理の友人に便宜を図るため、国交省や県に圧力をかけた」という疑惑がかけられ、連日メディアに追われていたのです。
そんなある日、一家の長女・麻由美(池田エライザ)の幼い娘が誘拐された。犯人からの要求は身代金ではなく、「明日午後5時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ」という清治郎への脅迫だったのです。
過去にも様々なスキャンダルに関わっていた清治郎。それは清治郎が、現総理大臣・夏川泰平(金田明夫)を擁護する役目をしていたからです。これまでの擁護を「罪」とするなら、それは決して明かすことが許されない、自らの議員生命と“国家”を揺るがす「罪」でした。
清治郎は権力に固執し口を閉ざそうとしますが、罪を問われない特例・指揮権発動と、夏川総理からの「自身の後継を宇田家の者にする」という確約を得るために奔走します。 ですが、清治郎にだけ罪を負わせようとする党との駆け引きの末、指揮権発動がないまま記者会見が開始。結局、清治郎は過去の2つの罪を自白しますが、現在論争が続いている上荒川大橋の件には最後まで触れませんでした。
会見後、犯人から「国民を馬鹿にしているのか。午後10時までに再度会見を開き、全ての罪を自白しなければ孫娘の命はない」とメッセージが届きます。
公にしていない残る罪が犯人の要求なら、総理が関与している上荒川大橋の件しかありません。ですが、なぜ内密にしているはずのことが世間に漏れていたのでしょうか。
政府内部に密通者がいるかもしれないと晄司は各所を奔走し、驚愕の事実を突き止めるのでした。
●感想
この作品が、あまりヒットしていない理由として、真保裕一原作の作品として告白すべき秘密が、公共事業にまつわる汚職に過ぎないことがあげられます。また誘拐犯側の動機も、映画をご覧になった人だったら、そもそも正当防衛と事故死が通ることなのに、なんで誘拐につながるような、あることをやらかしてしまったのだと疑問に思うところでしょう。真保作品にしては、作品の背景や、動機面がショボく、それを演出面でうまくカパーできていないところに、本作の問題点があると思います。
『相棒』ファンのわたしはついつい、本作とテレビ朝日『相棒 season22』を比べてしまいます。初回拡大スペシャル第1話「無敵の人〜特命係VS公安…失踪に潜む罠」 と解決編となる第2話「無敵の人~特命係VS公安…巨悪への反撃」 の物語は、『おまえの罪を自白しろ』というのに相応しい内容でした。何しろ警視庁公安部部長が、新興宗教教団を潰すために、潜入捜査担当の公安刑事を使って、わざと爆破事件を起こして、教団に罪をなすりつけようとしたのです。しかもこの計画には、特命係の「天敵」である警視庁副総監が関わっていました。第2話のラストで、杉下右京(水谷豊)が副総監に、死者も出た爆破事件に関わったあなたの罪を自白なさい!と激高して迫るシーンが印象的でした。
そんな相棒初回スペシャルに比べて、本作の背景にあるものは、何とショボいものでしょうか。まぁそんな事件のことよりも、政界の裏取引を暴き、それを逆に自らの立身に利用できた晄司の鮮やかな転進ぶりのほうが見せ場だったのかもしれません。
その晄司を、これまで爽やかな好青年役が多かった中島健人が演じています。晄司も登場当初は、好青年でよきパパという出で立ちでしたが、やがて誘拐犯や派閥間のスパイを捜し出すなど、常に巨大な悪に立ち向かっていくなかで、存在感がグイグイ増しました↓。持ち前の目力で真実を見つめようとする迫力満点の演技に注目してください。