「自分の影に翻弄された男の悲喜劇。」ジョーカー フォリ・ア・ドゥ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の影に翻弄された男の悲喜劇。
自分自身の影に翻弄され身を滅ぼしていく男。冒頭のアニメーションが本作を端的に物語っていた。
前作は一人の心優しき男がその不幸な境遇ゆえに次第に心を蝕まれ、殺人を犯しジョーカーというカリスマに祭り上げられていく様を描いた。
本作は法廷を舞台に否応なく自身の過去と内面を直視させられ、ジョーカーでい続けることに苦悩する男の内面をリアルに描き出した。
今回は彼の内的世界を描くことに終始し、あまりにリアリズムに徹したためか前作ほどのエンタメ性はないものの、彼の妄想をミュージカル仕立てで描いた点などはかなり良かった。
殺人を犯し閉鎖病棟に隔離されたアーサー。彼はカリスマ的人気を得て、いまや彼を主役にしたドラマも大人気だ。熱狂的なファンも多い。しかしここ閉鎖病棟で暮らす彼にとってそんな周りの熱狂などは関係なかった。彼らが熱狂するのはジョーカーであり、自分ではない。自分のことを理解してくれる人間などこの世にはいない。いくら周りが騒ごうとも彼の孤独な人生は今までと何も変わらなかった。そんな彼が運命的な出会いを果たす。
リーとの出会いで彼は救われたような気持ちになる。彼女こそ自分をわかってくれる唯一の女性だと。周りのようにジョーカーとしてではなくアーサーという一人の人間として理解し愛してくれる女性なのだと。
アーサーはただ不幸な境遇の中で生きてきただけの憐れな男でしかない。根は心の優しい普通の男だった。その彼がジョーカーというカリスマに祭り上げられた。
透明人間のように誰からも見向きもされない孤独な男はピエロのメイクをすることで周りから認められた。もう自分は孤独で憐れな男ではない。ひとたびジョーカーになれば世間は自分に注目する。皆が自分に熱狂する。
自らが生みだしたキャラクターであるジョーカーになった時だけ自分はこの社会で認められた。この時だけ生きている実感を味わえた。その快感は何ものにも代えがたいもの。彼はその快感に酔いしれた。しかし観衆はさらにどん欲だ。
この舞台で彼へのアンコールの声が鳴りやむことはない。幕が下りてもその声は鳴り続け、舞台を降りたプライベートでも彼らは要求してくる。もっと楽しませてくれと、今日のジョークは、と。
もう疲れた、これ以上この舞台で踊り続けるのは。アーサーは本来はただの普通の男でしかない。ジョーカーでい続けることは彼には荷が重すぎたのだ。そしてリーも所詮は周りの観衆と同じだった。彼女もアーサーではなくカリスマのジョーカーを求めていただけだったのだ。
絶望の中でアーサーは死んでいく。しかし、それは一人の憐れな男が死んだに過ぎない。彼を殺した男がその場で自分の口をナイフで切り裂く。
ここにまた新たなジョーカーが誕生した。ジョーカーはこの世界のどこにでもいる。誰もが潜在的なジョーカーなのだ。
世界が貧困と憎悪と狂気に包まれている限りジョーカーはどこにでもその姿を現す。そしてジョーカーは人々の鬱屈した思いを解放し社会を混乱に陥れる。今まさにそんなひとりのジョーカーがふたたび大統領の地位に返り咲こうとしている。
本作は賛否両論だけど、観客が「ジョーカー」というキャラクターに求めていたものが本作で描かれてないことに失望した人が多いみたい。これって劇中のアーサーがまさに世の中からジョーカーとして求められていたこととそのままリンクしていて、このことも監督が最初から意図して撮ったとしたらすごい皮肉が込められてるなあ。前作の「ジョーカー」が大ヒットして現実社会でもジョーカーの真似をした暴力事件が発生した。虚構が現実社会に侵蝕してしまったことに罪悪感を感じて監督は今作を撮ったそうだ。
ホアキンの演技は今回も相変わらず凄まじい。むかし竹中直人の笑いながら怒る人というネタがあったけどホアキンはまさに笑いながら泣く人だ。ただ、ヒース・レジャーの件もあるのでしばらくは普通の役に専念してほしい。
トランプ優勢みたいですね。ただ、どちらになっても戦争で商売するのは変わらないです。第三の候補者も当選確率が上がればいいのですが、そうはさせないですね権力は。カオスの時は悪を求めるので、本作のトーンは良かったのではないかと思いました。
コメントありがとうございます。
賛否両論も承知の上のストーリー。混沌とした世の中をそのままに示すものだったのでしょうね。次なるジョーカーへの投げかけになることを祈ります。
監督、悔やんでたんですか・・・。そういう監督だからアーサーに寄り添えて、「大衆」の欲求に迎合しないでことを決められたんですね。前作の大ヒットあってこそかも知れなくても。ありがとうございました
レントさん、コメントありがとうございます!私もアーサーはやっとジョーカーから解放されたんだ、と涙と共に納得しました。監督の気持ちでもあったと思います
コメントありがとうございます。
ジョーカーは文字通り道化に過ぎなかった。ラストのメッセージは、
『ジョーカーとは世間が作り上げた虚像だから、この男に憧れを持つのをやめなさい。』
とも聞こえます。
前作のえもいわれぬ感動に冷や水を浴びせられたようで、自分としてはがっかりでした。
リバイバル上映で、感動を新たにしたばかりだったので、なおさらです。
映画としての出来はいいんですけどね。
共感・コメントありがとうございます。
良いレビューですねー。納得です。
大統領候補の彼も悪のカリスマですか?
アメリカの病理が生んだ?
社会の歪みが彼に熱狂して崇める。
たしかに言えますね。
ただしメッキは剥げてもはやただの老いぼれ。
次のジョーカーの出現が怖いですね。