「予告篇に騙されてはいけません。」マッドマックス フュリオサ こんたんずさんの映画レビュー(感想・評価)
予告篇に騙されてはいけません。
私はジョージ・ミラー監督のファンであり、マッドマックスシリーズをこよなく愛する50代半ばのおじさんです。この作品のレビューをしている方々は私より歳下の若い人がほとんどだと思います。携帯電話はもちろんインターネットすらなかった時代を生きて来た昭和のおじさんの視点からレビューしたいと思います。
理屈っぽく語りますので、ウンチクが苦手な方は読まないでください、笑。
日本公開前から予想外の全米興行不振のニュースが伝えられました。
これを受けて日本のSNSでは「マッドマックス大コケ、駄作だったみたい」等々の「失敗=駄作」という、ある意味制作者に無礼とも言える短絡的なコメントが散見されました。
で、満を持して日本公開。レビューで限って見ると賛否両論。
日本では健闘しているようです。
そもそも1作目はアメリカでヒットせず、日本では大成功でした。
実は意外なことにフューリーロードも最終興行成績は赤字だったんです。
これは作品の世界観が独自すぎて、批評家や特定のファンにはウケるけど、万人向けのテーマではない、ということなのでしょう。
今の映画は大変です。公開前、公開後もインターネットという敵にも味方にもなるツールと戦わなくてはいけません。
特に鑑賞者レビューは読み進めると、その方向に洗脳されてしまいます(笑)
レビューを読むとわかりますが、フュリオサの評価を下げているレビューワーのほとんどはフューリーロードと比較しています。はい、もちろん私もその気持ちわかります。
シリーズ作品であるスターウォーズ、ジョーズ、インディ・ジョーンズ、エイリアン、ターミネーター、ダイ・ハード。。。(世代がわかりますね)そりゃ前作と比べたくなるのがファンというもの。
マッドマックスのイメージは?と問われれば1000人中1000人が「カーアクション」と答えるでしょう。1979年の1作目公開から45年、みなさんの脳内に「カーアクション」が植え付けられています。
映画に限らず「物語」というのは起承転結で構成されています。
マッドマックスはシリーズ通して見るとわかりますが「結」の2/3がハイライトであるアクションで表現されています。息をもつかせぬカーアクションが終わって、1分程度のエピローグがあってすぐにエンドロールに入ります。ですから観ている人は「おぉ!」とアドレナリンが噴出してアクションの余韻を感じたままエンドロールを見ることになります。
本作品はその構成が違います。
ラスト近く、フュリオサとディメンタス将軍のそれぞれの葛藤が声と表情によって語られて、静かに結末を迎えます。
観ていたほとんどの人はハイライトがイモータン・ジョーとディメンタス将軍の直接対峙とそれに関わるフュリオサ、に期待していたのではないでしょうか。
初見の鑑賞中、「あれ?まさかこのままエンディング?」と私も心の中で思っていました。
ではなぜこの構成なのか、これはフュリオサの15年の人生を描いた作品だからです。
ですので、なぜ多くの人がフューリーロードと比較したがるのか不思議なのです。
フューリーロードは「九九ができなさそうな奴らが出ている、行って帰るだけの映画」と
表されました(とても作品を言い当てている)
対してフュリオサはフューリーロードで登場する前の人生を描いているので、そら心理描写が増えてドラマティックな要素が強くなりますね。
余談ですが、邦題は配給会社の戦略なのでしょうが原題と同じが良かったと思います。
単純な人はマックスが出てないのになぜマッドマックス?って呟いていましたから、笑。
ミラー監督とこのシリーズが大好きな私の、本当は両手を挙げて絶讃したいけどあえて「弱いなぁ」と思うところです。
ディメンタス将軍が究極の悪人ではない。
下っ端から「俺はお前の部下ではない」的なことを言われたり、途中で仲間割れしてますね。くまさんのぬいぐるみを差し出す時に「娘の形見だ」ラストで「俺もお前と同じように多くの大切な人を亡くしてきた」など、悪人なんだろうけど人間味を感じさせるセリフ。
あえてこうしているのでしょうけど。
VFXがちゃちいシーンがある。
特に見せ場の空中戦は実走行とグリーンバックの差がわかりすぎて、もうちょっとうまく
合成できないものかなぁ、と思いました。エンドロールのVFXスタッフの人数は相当多かったですが。
実際はオーストラリアで緑の木々があるロケ地だったそうで、まぁ背景合成の難易度が高いのはわかります。
それと、制作するにあたって俳優ユニオンの力が強いとか、実走行させると撮影時間がかかるという大人の事情もあるみたいです。
フューリーロードと比較すると、本作品の公開されているメイキングはかなり少ないので、「え?このシーンこんな撮影だったの?」ってネタバレの楽しみが少ないです。
幼少期の描写が長い。
実際は長く感じることはなかったのですが、そういう意見ありますね。
幼少期をもっと短くして、成長したフュリオサとイモータン・ジョーの関係性と確執を描いた方が良かったような気がします。なぜ、フュリオサはフューリーロードでイモータン・ジョーに反旗を翻したのか。
ミラーはその答えを最後の語りに答えを出した、ということでしょう。
フュリオサが心を開いたジャックがあっけなく死んでしまった。。。
キラーカットが少ない。
本作と前作をご覧になったみなさん。パッとすぐに思い出す印象的なシーンありますか?
1作目ならバイクが暴走族の頭を直撃するシーンとか。
フューリーロードだったら、オープニングチェイスのギター野郎(笑)とか、炎を砂で消すシーンとか。
意外とフュリオサは印象的なチェイスカットが少ない気がしますね。
その判断で良し悪しつけるわけではないのですが。
音楽がイマイチ。
前作と比較するなと言いつつ比較しますが、感情移入できる旋律が少なかった。
義手になった理由。
これ、一番肩透かしでした。逃げ出しすために自ら切断したということ。
で、なぜ多くのバイカーがいるところで気がつかれずに逃げれたのか、とか。
私の脳内脚本だと、緑の地の場所を記した刺青がバレそうになったから、とか勝手に想像
していたのですが。
良かったところ。
オープニングがフューリーロードとほぼ同じ構成。
クレジットされるフォントが同じということに気が付きましたか?
幼少期のフュリオサが可愛い(変な意味ではありません)
どこかの記事で読んだのですが、実際はなんと!演者さんとAIで作り出したというこの世に実在しない顔とのことですが、本当でしょうか。
母ちゃんがかっこいい。なんか妙な色気があって良い。
フュリオサがなぜ狙撃手の名手なのか、わかります。
衣装やバイクの装飾が細かい。私は2回鑑賞しているのですが、2回目は脳内処理に余裕があって、そういうところも見るようにしました。
後半出てくる人間が叫んでいる形のシフトノブ、あれ欲しいです、笑。
あと最後に将軍が乗っていたマネキンフロントのバイク。。。。
カーアクション
随所に散りばめられたカーチェイス。こういう表現は失礼かもですが、大粒ではなく小粒がたくさん。一瞬ですが走りながら車の荷台にバイクが駆け上がるとか、アイデアが詰まりに詰まっています。決して前作に劣るものではないです。アクションがドラマの繋ぎ役になっている感じ。
ズームレンズではなくカメラが寄っていき、被写体を中心に、という構図が素晴らしいと思います。
一瞬の静寂。
フュリオサが道路で周囲を見回すシーン。本作はほぼ全編に音楽が薄っすらのているのですが、ここで無音になります。聞こえるのはフュリオサの呼吸音と衣服が擦れる音だけ。
観ているこちらが息を止めたくなる静寂がいい。
オマージュ。
マッドマックス2のワンシーンを思い出させる砦の上から噴射される火炎放射器。
オマージュではないですが、ギター野郎が後半、ヒキ画の奥でギターをかき鳴らしていました。
そしてインターセプターと佇むマックス。トカゲを食うオープニングシーンですね。
マックスが見ていたのはあの光景だったんですね。
マックスは誰が演じていたのでしょうか。
目の強さ。
本作の特徴はこれでしょう。VFXで誇張されているとはいえ、外であろうが暗がりであろうが、すべてのキャクターの「目力」がすごい。
ちょっとヒラメ顔のアニャ・テイラー=ジョイの目力が素晴らしい。
道路でジャックを睨みつけるあの鋭い目。あれはすごい。
総じて、
長尺ですが、それでも修羅の道をすべて描くには足りないでしょう。
「セリフではなく、画で表現したかった」というジョージ・ミラーの意図は伝わると思います。
ラストの二人の掛け合い。
流れるフュリオサの涙は、ディメンタス将軍が語る「お前も俺も同じだ。同じ過去を背負っている」という言葉に復讐だけではなく、他の感情も流れていたのではないでしょうか。
フューリーロードの脚本とほぼ同じ時期に本作の脚本も完成していたようです。
順調にいけば、フューリーロードの続編が制作されるはずです。
トム・ハーディとシャーリーズ・セロンは続編の出演契約にサインしてある、ともコメントしていました。
ただ、本作が途中ミラーとワーナーが裁判沙汰になったこと、ストライキの影響で1年公開が伸びてしまったこと、パンデミックによる映画ファンの心理変化があったことが理由になったとしても全米の興行成績が残念な結果に終わると、ワーナーが莫大な資金を出すとは思えず、ウェストランドは制作中止になる可能性が極めて高いです。
なにせヒットした印象のあるミッションインポッシブル最新作ですら、儲けはちょいだったそうです。
ジョージ・ミラー監督は79歳。
高齢ではありますが、、ファンとしてはもう一本監督作を観たいです。
今夏、午前10時の映画祭でマッドマックス初期2作が期間限定で劇場公開されますよ。
私は観に行きます!
V8インターセプターを讃えに、みなさん観に行きましょう。
長文駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。