「日本人が挑んだ『LOTR』への戦い」ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本人が挑んだ『LOTR』への戦い
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今年も元日劇場鑑賞。時間の都合が付かなくて昨年中に観れなかったのを。
世間じゃ“キムタク映画”が年末に封切られたばかりで話題のようですが、TVドラマを見てなかったので…。
新年一発目なのでせっかくなら景気のいい作品をと、このシリーズの新作を劇場で観たかった。
…しかし、意外な形で。
映画史に燦然と輝く『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ。
3部作の後、『ホビット』3部作やAmazon Prime Videoで配信ドラマシリーズも作られ、人気は今も不滅。
久々の映画新作は、何とアニメーション!
さらに何と、監督は日本のアニメーション監督、神山健治!
初めてビジュアルを見た時は驚いた。キャラデザは完全に日本アニメ。
が、日本製作ではなく、ハリウッド製。『LOTR』や『ホビット』と同じくJ・R・R・トールキンによる原作(『指輪物語 追捕編』)をベースにし、『LOTR』を手掛けたピーター・ジャクソンらがプロデュース。正統なる新作。
実写版スタッフ×神山健治で一体どういう新たな『LOTR』になるのか、日米共に大不発のようだが、気になってた。
時代設定は『LOTR』より200年前。
まず、開幕シーンに感嘆した。
実写のようなリアル風景。青い空、雪を被った山々、大平原…。
『LOTR』にも登場した大鷲が飛ぶ。
そこに、『LOTR』らしい雄大な音楽。ハワード・ショアの音楽も引用。本作、音楽が素晴らしい。
実写にも負けぬ壮大な幕開け。アニメーションながらも、ああ、中つ国に帰ってきた。
平原を馬で駆ける主人公。ヘラ。
見るからに勇ましそうなこのヒロイン、ほぼ本作オリジナルキャラクターと言っていい。
原作ではヘラは、“王には3人の子がいて、末が娘”とだけしか記されておらず、名前すら無い。
それをよくぞここまで膨らませたものだと感心。
中つ国のローハン国。“槌手王”の異名を持つ勇猛なヘルム王が統べ、二人の息子ハレスとハマ、そしてヘラ。平和が保たれていた。
同盟国ゴンドールとの会談中、突然の訪問者。ローハン西領主のフレカ。
強欲なフレカは勢力を伸ばす為に、息子ウルフとヘラの結婚を望む。
ヘラとウルフは幼馴染みだったが、自由を求むヘラはこれを拒む。ヘルム王も申し出を断る。
共に猛々しい性格のヘルム王とフレカは険悪となり、素手で勝負。ヘルム王がフレカを殴り殺してしまう…。
想い人に拒まれ、父を殺されたウルフは激しい憎しみをヘルム王に向ける。
ヘルム王はウルフを追放し、復讐の種を絶やしたかに思えたが…。
暫く後、偵察中のヘラが何者かに捕まる。追放されながらも勢力を蓄えていたウルフの軍団。
何とか逃げ出し、ヘルム王に報告。ヘルム王は二人の息子や軍を率い、迎え撃つ。が、戦場にウルフの姿はなく…。
城に残されたヘラは、捕らわれた時見たものと同じものを城内で見つける。城内にウルフと通じる裏切り者が…。
魔手に襲われるも返り討ちにし、民を逃がそうとする。
まさにその時、ウルフ本隊が迫ってきた。あちらが囮、こちらが主力軍。
憎悪に溢れたウルフの復讐。ヘルム王とその一族の命、ローハンを我が手に。
王や軍不在の中、ヘラは…。
対立が引き起こした悲劇。陰謀と策略に落とされた危機。絶体絶命からの抗い。
立ち向かうは王や男兄弟ではなく、末の娘。ヘラが日本のアニキャラ風美女で、何より勇ましい。
対して、ウルフが毒々しい。悪役だが、哀れみも少なからず感じた。
要所要所の二人の剣闘シーンは見せ場。特にクライマックス、風雪の中白装束に身を纏ったヘラとウルフの決闘はヘラの美しさも相まって白眉。
神山率いる日本アニメーションスタッフによる合戦シーンの迫力、画力のクオリティー。
『LOTR』ファンならニヤリとするリンクネタ。“ローハン”に“ゴンドール”。“ヘルム渓谷”の由来はここから。大鷲に巨象、あの醜悪族も。そしてそしてラストには、あの二人の魔法使いの名も…!
前日譚なのでファンは勿論、初見者でも見れる作りになっている。
話も概ね悪くなかったが…、『LOTR』の世界観や作風はしっかり継承しているが、前日譚というよりアナザーストーリーに感じてしまったのも正直な感想。
『LOTR』と言えば人間の他にもホビット、エルフ、ドワーフら様々な種族がいて、闇の勢力やドラゴンや“指輪を狙うワシら”もいて、緻密な設定からあたかも存在するかのように、想像力とロマン掻き立てる。
が、本作で登場するのは人間だけ。オークは“ゲスト出演”。
『LOTR』は指輪を葬る為の冒険、『ホビット』は竜に奪われた王国を取り戻す為の冒険。はっきりとした旅の目的と話があったが、本作は人間同士の私情絡んだ争い。だからか『LOTR』のようで『LOTR』でなく、アナザーストーリーと感じても致し方ない。
それにそもそも争いの発端は二人のバカ親のせい。偉大な王とされているヘルムだが、横暴にも感じた。
ウルフの襲撃で重傷を負ったにも拘わらず、何故にあんな力が…? まあそれが“ヘルム渓谷”の由来にもなった中つ国の伝説なのだろうけど…。
そんな親同士の争いに翻弄された子供たち。一方は復讐に取り憑かれ憎悪に堕ち、一方はうら若い娘だからとあらゆる事を拒まれるも、家父長制や運命に抗う。
そんなテーマも織り込まれているかもしれないが、まあこれは見る前から分かっていた事だが、どうあがいても『LOTR』の興奮や感動には及ばない。
それは仕方ない。『LOTR』はこれからもその座に君臨し続ける王なのだから。
でも改めて言うが、決して凡作や失敗作ではない。これはこれで面白かった。
あの『LOTR』の世界に挑んだ神山健治ら日本人スタッフの奮闘は拍手もの。
日本人が『LOTR』の一編を手掛ける。EDクレジットにはたくさんの日本人スタッフの名が。誇らしかった。
これで大ヒットしていたら…。(アメリカでは最終1000万ドルに届きそうにもなく批評も鈍く、日本では興行ランキング初登場TOP10圏外…)
昨年世界中で評価された日本映画や日本人の底力。
今年も…。僅かでも世界に挑む扉を開いたと信じたい。