「脚本が全てを台無しにしている。他は上質」ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い kennyさんの映画レビュー(感想・評価)
脚本が全てを台無しにしている。他は上質
ロード・オブ・ザ・リング本編映画って三部作8時間掛けての物語じゃないすか。その中でアクション的なシークエンスは思ったより少なくて、その分じっくり、キャラや物語の掘り下げをしていたから感情移入しっかりできて盛り上がった。
その点本作は2時間で見せ場をこれでもかとばかり詰め込んである。このため本編のような深みはなく、物語は表層的で薄っぺら。
以下ネタバレ注意。
その見せ場にしてからが例のゾウさんとタコ、ローハン焼き討ちからの逃亡>城塞閉じこもり、櫓出しての攻城戦、城塞脇道からまさかの援軍が敵を粉砕……ともう、本編見せ場を丸コピ切り貼りなので既視感が強い。このため画面内の登場人物だけわあわあ興奮しているが、観客は置いてけぼりでのめり込めない。
とはいえ映画としての破綻はない。既視感ある展開も好意的に解釈すれば原作愛って話で、よくできたファンアート、二次創作って感じ(公式コンテンツにしては情けない限りだが)。だから採点は平均点の3。暇なら観ても損はしないレベル。アニメも演出も編集もよくできてはいる。問題はもっぱら脚本。
唯一オリジナル展開があって面白かったのは、父ちゃん(ヘルム王)大活躍のとこ。とはいえこの父ちゃん、ラスボス級悪役を序盤ひと殴りでぶち殺す(ここ笑ったし映画脚本に関して不安を覚えた)>敵を見下す>城攻めに遭うと「降伏する」と弱気発言>死にかけ体調なのに謎の格闘キャラ覚醒で毎晩単騎で敵殺害テロとまあ、よく考えたらわけわからん。
娘と共に敵に追われ城門をなんとか少し開けて娘を押し込むんだが、「敵がすぐ来る。俺はここで戦い守る」と泣ける宣言(ありがちだが)。でまあここで一分くらい「お父様」「娘よ」とか泣かせの別離シーンがあって閉門。父ちゃんは敵相手に無双した挙げ句、拳を突き上げた弁慶ばりの立ち往生姿が翌朝見つかる。父ちゃんラオウかよ。それにそもそもあの一分で父ちゃんも中に入れただろ、どう考えても。トキのシェルターシーンかよ。脚本どうなってんのよ。
他にも、いっぱい問題がある。たとえば娘「無駄な殺し合いはどうのこうの」>父ちゃん出陣時「敵を殺せー」>敵親玉が戦争で父ちゃん殺す>娘「この人殺し!」とか、どういうことよw 中世的な戦いでは殺し合うのが普通なのに「人殺し」呼ばわりは酷い。第一父ちゃんからして「殺せー!」突撃で自分らもやってるし、そもそもの発端は父ちゃんがラスボス級臣下をぶち殺したからだしな。
父王の出陣演説も、本編のあの素晴らしい演説「人間が倒れるかもしれない。でも今日じゃない」の足下にも及ばない、がさつでギャングみたいな台詞。これ相当脚本家のレベル低い。ナウシカだってそういう世界に生きていたから、なんとか戦争を止めようとはしていたが、敵を「人殺し」って罵ったりしない。総じてこの手の、脚本の瑕疵が多い。
たとえば思わせぶりな「死んだ花嫁の衣装」とか「病気のゾウさん」「砦の謎婆」とかも別段伏線としてなにかが回収されるということはなく、放り投げられたままで終わっているし。
話はここまでで後は出来に無関係の雑談だが、全体に男のメインキャラは無能か馬鹿か傲慢で驚くよ、この映画観ると。好意的に描写されるのは、主役の王女含め、あらかた女。性格いい男もいるにはいるが、ただの脇役かチョイ役だけ。しかも王女にしてからが「私は誰とも結婚しない」と謎のクロワッサン発言。観劇中、日本アニメにしてはキャラ配置おかしいなあ……と思っていたが、エンドクレジット見たら脚本家、日本人じゃなくて納得いった。ポリコレという名の下に男女ヘイト対立を煽る、最近多い例のパターンなわけね。