劇場公開日 2025年3月28日

「悪夢を跳ね除ける力が僕らにはきっとある」ミッキー17 とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0悪夢を跳ね除ける力が僕らにはきっとある

2025年3月7日
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笑える

興奮

知的

ワン・アンド・オンリーなポン・ジュノ監督のフィルモグラフィーにおいて本作は新鮮さよりコレコレという安定感に似た興奮と確かな映画的カタルシスを与えてくれる、ユニークなスリルライドだ

現実に甘んずるだけでなくてきっと、悪夢を振り払える自分もいる。別人みたいに違って見えても、どちらも自分。ずっと終わらない怖い夢でも見ているみたいな、このクソみたいな世の中で、プリントされた肉とTVディナー。使い捨てられる格差社会。
vs 立ちはだかるのは、"ホンモノ"にこだわるピュアホワイトな選民思想という人種差別に、女性を子供を産むためだけの子宮という道具みたいに扱う性差別など、肌を浅黒く茶色に塗ったマーク・ラファロのノリノリな仮想トランプ!『哀れなるものたち』モードと言っていいくらい続いて、なんとも底の見えた浅はかで薄っぺらくて"ヤ(嫌)なやつ"を体現する時期か。彼自身、非常にそうしたものへの怒りというか嘆きというか、この現実に危機感を持って変革することに活動的な人だから納得。

まさしく"ワン・アンド・オンリー"唯一無二なポン・ジュノ監督らしく社会を映し出すソーシャルコメンタリー。娯楽性の高い作品の根底にある社会的なテーマ。無論原作ありきと言えど、生き返りや人類移住など今までにもあって既視感を覚えるプロット・アイデアをこうも新鮮かつ大胆不敵スリリングに面白く調理してしまえる。やっぱり誰かが声を荒げて怒号が飛び交ったり、体を張って笑いを取るスラップスティックだったり、そういうどうしょうもなく煮詰まった状況で起こる(登場人物たちは至って真剣だからこそ)テンションの高いドタバタ劇の魅せられ引き込まれてしまうような面白さは間違いなくて、その点で本作はそうした場面が多く、かつ効果的できちんと機能していたと思う。だから、見ていて飽きなかったし、むしろドンドンと「どうなるんだろ?」と夢中になった。
ミッキーの現実に甘んじるようにどうしようもなく情けなく不甲斐ない、うだつの上がらない共感性の高いキャラクターがかわいらしくもリアルだったし、最後の成長まで込みで自分のものとして持って帰りたい。ポン・ジュノ監督作品あるある男性キャラの一方で、強く頼れる女性キャラは本作ではナオミ・アッキー。原作は「7」なのにポン・ジュノが「彼が死ぬところをもっと見たい」という理由から「17」にしたというエピソードを読んだけど、ロバート・パティンソンみたいな役者なら170人でも700人でも何人いてもいいのだ。バッキー・バーンズでなくミッキー・バーンズ、ということで最後はいち早く見た観客の鑑賞後コメントCM風に、「今年の春はぁ〜…"ミキセブ"!」

『スノーピアサー』✕『オクジャ』= ドン底の"死にゲー"からの逆襲…!何でも撮れる彼にとっても、SF映画という(現実から距離を置くことでより)現実の問題を描けるという点でも想像力・創造性が爆発しそうな得意フィールドで、『グエムル』よろしく怪獣映画なのかと思う巨大ダンゴムシに始まる『デューンPART1』と思ったら『PART2』みたいな、『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』ですらあるみたいな盛々に気の利いたアツい展開にコレコレコレ!…と観ている方も自然とギアが上がり、ニヤリとしてしまうような映画的カタルシスがあった。終盤コレでも畳み掛け雪崩込むお祭り感、最高。もしかすると彼のフィルモグラフィーでベストな作品ではないかもしれないけど、抜群にユニークで面白くハズレのないフィルモグラフィー、その抜群の安定感を今回もまたもや更新してくれた!
主人公たち以外にもう1人のキャラクターも、最後には劇中一度甘んじそうになった恐怖と対峙して乗り越える?現実の終わりのない悪夢みたいな恐怖を跳ね除ける力が僕らにはきっとある。死ぬのはどんな気分だ!

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とぽとぽ