「良い意味でとても質素で味気ない。」夜明けのすべて hokuhokuさんの映画レビュー(感想・評価)
良い意味でとても質素で味気ない。
映像やストーリーに特別な仕掛けがある訳でもなく、ただただ誰かの日常を客観的に見ているような、正にプラネタリウムを見ているような感覚。
特に状況や環境が移り変わる場面では、直接的な描写はなく、深い意味もない。
恋人と別れたり、転職して行く場面などの何かしらの変化がある場面はいつもグラデーションのようにぼかされるような、曖昧な表し方。
でもその曖昧さが、傍観者の探究心をくすぐっていると感じた。
演技というより、ほんとに誰かの日常という感じ。
誰かの日常に、役者が当てはめられているだけのような、そんな自然な物語だった。
でも途中途中の山添くんが発する、無神経でトゲがあって無意識な嫌味も含まれるような発言が、すごく心臓をえぐってくる。
届かないとわかっていても思わず口を挟みたくなるような強い、芯のある言い方。
私が藤沢さんだったら二度とは話しかけられないな。と思うような言葉があった。
藤沢さんが初めて自身のpmsを打ち上け、山添くんのパニック障害に寄り添おうとする場面。
お互い頑張ろうね。という言葉に対して返ってきたのは、屁理屈じみている正論。
その真っ直ぐな言葉が、傍観者の私には痛かった。
そして藤沢さんが時々見せる苛立ち。
自身では落ち着かせることのできないその苛立ちにより生まれる言葉には、心から同情した。
苛立ちにより言ってしまった言葉をあとから振り返り反省する。これの繰り返し。
辛すぎて途中出てきた、藤沢さんがベランダから家の下にいる山添くんを眺めるシーンで、飛び降りてしまうのではないか。と思った。
でも映画チックなものは何一つなく、下手な人物補正もなにもない。
得られる知識はあっても、傍観者に寄り添う言葉はない。
映画としてはすごく味気ない。
しかし1種のプラネタリウムとしては忘れられないものになった。
五臓六腑に染み渡るような暖かなフィルターがかった映像が、着々と脳を溶かしていくようだった。
物語の盛り上がりこそ無いものの、今まで見たことの無い、素晴らしい映画だった。
今はこれ以上の言葉が見つからない。