「星の図鑑を片手に持って、あなたの夜空を探しに行こう」夜明けのすべて Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
星の図鑑を片手に持って、あなたの夜空を探しに行こう
2024.2.13 イオンシネマ京都桂川
2023年の日本映画(119分、G)
原作は瀬尾まいこの小説『夜明けのすべて(水鈴社)』
PMSを患う女性とパニック障害を持つ男性の交流を描いたヒューマンドラマ
監督は三宅唱
脚本は和田清人&三宅唱
物語の舞台は、東京都内某所
そこで会社勤めをしている藤沢美紗(上白石萌音)は、月経前にイライラしてしまうPMSという病気に悩まされていた
医師(宮川一朗太)は新薬を処方するものの、それは異常に眠気が出るもので、それを服用すると仕事にならない
それから五年後、美紗は科学商品を扱う「栗田科学」の事務員として勤めるようになっていた
PMSの発作が発症しても、先輩の佐川(久保田麻希)がサポートし、社長の栗田(光石研)も病気については寛容だった
会社では、小さな組み立て式のプラネタリムや望遠鏡などの「小学生が科学にふれる機会を作るもの」がたくさんあって、それらの梱包や発注を任されているのが美紗だった
佐川は経理を担当し、開発は鮫島(矢崎まなぶ)が担い、デザインは鈴木(大津信伍)、技術的なことは猫田(中村シユン)、営業に関しては平西(足立智充)が担当していた
そんな中、栗田は弟の康夫(斎藤陽一郎)がストレスを起点とした自死をしていて、そのセラピーの一環として、ピアサポートの会に通っていた
そこには最近栗田科学に入社したばかりの山添(松村北斗)の元上司・辻本(渋川清彦)もいて、この交流がきっかけで縁ができていたのである
山添は一見するとやる気のないマイペースに見えるのだが、実はパニック障害を患っていて、何がきっかけで発作が起きるかわからない状態だった
ある日、蛍光灯の交換を起点として発作を起こした山添は、美紗が見つけた薬で落ち着きを取り戻す
栗田の命令で自宅まで送る事になった美紗は、会話のきっかけで「自分と同じだと感じていた」と語るもののn、山添は「全く違うものだ」と断じた
映画は、恋愛要素を完全に排除し、誰かが誰かを助けられるんじゃないかという希望を描いていく
発作が起きるとどうしようもないと思えるものの、その状態を理解し支えてあげることはできる
そういった心の拠り所があれば、人は生きていけるのと思えるのではないか、という命題がある
そして、「3回に1回は発作を止められるかもしれない」という山添の言葉は、お互いの心を少しだけ軽くしていくのである
原作は未読ながら、舞台は金属工業の会社のようで、かなり改変が加えられている内容になっていると知った
後半のプラネタリウムのシークエンスは映画のオリジナルで、このシーンでは栗田の弟が残したノートが引用されていく
夜明け前は一番暗いというヨーロッパの諺が引用され、ユーモアたっぷりの星についての物語が展開される
山添が見つけたものに色を加えていく作業が生きていることを肯定し、さらに希望を感じられる言葉が紡がれていて、この改変は映画ならではのビジュアライズと相まって素敵な時間を演出してくれていた
この改変が原作の何を変えてしまったかはわからないが、映画的には正解だったように思えた
いずれにせよ、パニック発作の部類は経験があって、自分の場合は山添ほど酷くはなかったのだが、それが起きた時のどうしようもなさというのを経験しているかどうかで理解は変わってしまう映画のように思える
大人になり、自分を理解していく上で、そうならない人間関係の作り方、職場の選定ができたおかげで再発はしないものの、あるトリガーさえ揃えばヤバい事になるのは理解している
そうした視点から観る映画は、こんな理解者がそばにいてくれたらいいなと思う一方で、いつまでもそばにいるわけじゃないから依存もできなくて苦しいようにも思えてくる
映画は、そういった経験を持つ人へのひとつの救済のアイデアのようなもので、ピアサポートのような同じ悩みをある人との繋がりの場所を探してみるのも良いと思う
そういったきっかけになれば良いと思うし、今ではSNSなどの普及によって容易になっている面とハードルが高くなっている面はある
映画を鑑賞することで、少しでも心が軽くなる人がいるのならば、それだけで素晴らしいことだと思うので、気になる人は足を運んで体感しても良いのではないだろうか