劇場公開日 2024年2月9日

「生きづらさと無縁の人ほど観るべき良作」夜明けのすべて おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生きづらさと無縁の人ほど観るべき良作

2024年2月12日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

単純

幸せ

予告から、心の病気をもつ人々のヒューマンドラマを期待して鑑賞してきました。なかなか見応えがあり、本作を通して初めて知ることもあり、多くの人に観てほしい作品だと感じました。

ストーリーは、PMS(月経前症候群)のため定期的に情緒不安定になる藤沢美紗が、そのせいで前の会社を辞め、今の会社に転職してしばらくした頃、同じように転職してきた山添孝俊の些細な行動にまたもや腹を立ててしまうが、彼もまたパニック障害を抱えて悩んでいることを知り、自身と似たようなものを感じた二人は、互いの存在に少しずつ救われるものを感じるようになるというもの。この二人の関係に恋愛を持ち込まなかったところが、本作の価値を高めていると思います。

恥ずかしながら、PMSというものを初めて知りました。生理に伴うということで人には話しにくく、知らない人も多いのではないかと思います。そうでなくても、自分の持つ病気はなかなか口に出しにくいし、とりわけ心に関する部分は外見からもわからないので、周囲も気づきにくいと思います。もしかしたら自分のまわりにも、心の病気で苦しんでいる人や大きな苦しみや悲しみを抱えている人が何人もいるかもしれません。もっと心を開いて話せる雰囲気が生まれ、互いにわかり合えるような職場や社会になるといいなと感じます。

そういう意味では、藤沢と山添の職場は、一つの理想形だと思います。二人の持つ病気を理解し、必要以上に踏み込まず、それでいて温かく包み込むような職場の雰囲気がすばらしいです。藤沢がこの会社に勤め続けることができているのは、まさにそのおかげだと思います。そして、山添との出会いも、彼女にとって大きな支えになったのでしょう。苦しみを慰め合うのではなく、助け合って前に進もうとする様子が素敵です。一方の山添も、転勤した頃の無愛想な態度が和らぎ、心を開くようになり、元の会社に戻ることをやめ、この会社に残ることを決めます。藤沢との関わり、同僚との出会い、離れても親身に寄り添う元上司のサポートが、彼の心を少しずつ解きほぐしていったのでしょう。

そんな二人の絆や生き方を象徴するかのように、プラネタリウムが印象的に描かれます。中でも、プラネタリウム上映中に藤沢が語る「夜の暗闇があることで外の世界に気づくことができた」という言葉がとても印象的で、なんて素敵な考え方だろうと思いました。暗闇の中だからこそ見える星があるように、苦しい時だからこそ気づけるささやかな優しさがあるのです。「夜明け前がいちばん暗い」のなら、星の瞬きのような優しさは、最も苦しい時ほどたくさん降り注がれているのです。そして、それらすべてが夜明けへと繋がっているのだと、本作のタイトルが伝えているような気がします。

主演は、松村北斗くんと上白石萌音さんの朝ドラ「カムカムエヴリバディ」ペアで息ピッタリ。脇を固めるのは、光石研さん、りょうさん、渋川清彦さん、芋生悠さん、藤間爽子さんら。中でも、渋川さんの演技が秀逸で、思わずもらい泣きしてしまいました。

今回は上映後に舞台挨拶中継がありました。萌音さんはコメントの端々から優しい人柄が伝わってきたり、光石さんは栗田社長同様に現場を和ませていたという話が聞けたり、三宅監督は強面の見ためと違って周囲への感謝と気遣いを忘れない手紙が素敵だったりと、作品に負けない温かみのある舞台挨拶でした。

おじゃる
大吉さんのコメント
2024年2月29日

まさに生きづらさに無縁の人にこそ観てほしい作品ですね。
星の瞬きのような優しさは最も苦しいときほどたくさん降り注がれている。感動しました。

大吉
トミーさんのコメント
2024年2月13日

コメントありがとうございます。
もう姥捨山に捨てる事は許されないので、どんなに苦しくても先に進むしかないですよね。最近、諦めて切り捨ててしまう映画もちらほら有るようですが・・

トミー
トミーさんのコメント
2024年2月12日

共感ありがとうございます。
多分過去にもこういった病気は有ったんでしょう、神経衰弱で一絡げにされたりして。もう無かった事には出来ないので、せめて少しでも良い方向へと考えていくべきですね。

トミー
セイコウウドクさんのコメント
2024年2月12日

 私もプラネタリウムのシーンに救われました。谷川俊太郎の20億光年の孤独の詩を読み、地球にいる私達は皆、孤独な存在だと思っていました。暗闇があることで見られる星の光が、私達を優しく見守っていると考えると、孤独ではないと思わせてくれます。

セイコウウドク