「パスポートと骨壺」インフィニティ・プール kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
パスポートと骨壺
スランプ脱出のためのバカンスがとんでもないことに!農夫を撥ねてしまい死なせてしまった作家のジェームズ・フォスター(スカルスガルド)。逮捕され、過失致死でも死刑になるというリ・トルカ島の法を聞かされるが、大金を支払いクローンを死刑に処すことで罪を免れるという誘いに乗ってしまった。
エログロサスペンスの巨匠デビッド・クローネンバーグの遺伝子を感じるブランドン・クローネンバーグの3作目。いや、主人公ジェームズを演ずるアレクサンダー・スカルスガルドだって名優ステラン・スカルスガルドの息子だぞ!と、ステランもクローネンバーグの作品に出ているのかと調べてみると、彼はラース・フォン・トリアー作品の常連でもあったとわかる。顔立ちはあまり似てないけど・・・
サスペンススリラーからSFものへと変化する中、本物とクローンの区別がつかなくなるという展開。貧困国なのにクローン技術?という疑問はさておいて、富裕層の倫理観と狂気とが錯綜する奇抜な内容に驚きました。何しろ麻薬をやっても死刑なのに、彼らは平気でラリって乱痴気騒ぎを起こし、自分たちのクローンを死刑にさせる。自分とそっくりな人間を殺させて楽しんでいるわけだ。
こうしてジェームズも彼ら富裕層の遊びにのめり込んでしまい、抜けられなくなっていく。そして犬と化した自分に襲われ、とうとう自分殺しも経験するのだ。
個人的にちょっとキモだったのがパスポートと骨壺。ジェームズはパスポートを無くしてしまったから妻エムを先に帰してしまうのだが、実は自分で洗面台の下に隠してあった描写がある。自ら狂気の仲間入りをしてしまうほど魅力的だったに違いない。そして骨壺をしっかりとバッグに詰め込むシーンも興味深い。自戒の念?それとも生き残ったのがコピー?と観る者に想像させるところも素晴らしい。
境目のないプールといった意味のタイトルと無限に作れるクローン。プールそのものの映像がないのが残念なところですが、色んなメタファーも感じる奥深さもあったかな。