「潜水艦のように静かに淡々と進んでいく物語(※長いです)」沈黙の艦隊 anithさんの映画レビュー(感想・評価)
潜水艦のように静かに淡々と進んでいく物語(※長いです)
以下、箇条書きで感じたことをつらつらと。
再度警告しますが、長いです。
・原作は遥か昔に既読済み。深町のポジとか速水の性別とか確かに違うけど「これはこれで良し」と思えた。自分にはその設定変更が世界観を損ねているようには見えなかった。
・ちなみに「たつなみ」に速水のほか女性ソナーマン、空母ロナルド・レーガンにも女性の電測員がいる。しかし「やまと」には女性乗員の姿が見えない。少子化が進む中で国を守るのに男が女が言っている場合じゃない時代を反映していると同時に、「やまと」の「国家」を名乗るにはいびつすぎる現状を浮き彫りにしているように見えた。
・「夏川さんこんな芝居もできるんだ」としみじみ。橋爪さんの何言ってるか聞き取りづらいフガフガ喋りも凄かった。(普段活舌の良い喋りが印象に強かったので)
・深町と同期設定の筈なのに海江田の方が統率力があるように見える芝居マジック。「発射」等号令一つとっても「あ、この深町じゃ出し抜けないわ」と思わせる圧の強さを感じた。逆に深町は、弱さを引きずりつつも速水らに支えられて信念を貫くさまが表現できてたと思う。
・恐らく日本語が分かるライアン大佐と日英同時通訳ができる水兵のいる空母ロナルド・レーガン。でも「たつなみ」や「やまと」に警告する時は英語しか使わないところに、「アメリカはリヴァイアサンであるべき」と同じ傲岸不遜さが見て取れるのである。
・ライアン大佐もうちょっと頑張れば、海江田と入江弟に全治数週間のケガを負わせられたかもしれない。(山中らがいる限り懲罰房送りにはなるだろうけど。)
・海上を航行する潜水艦の外見と内部の大きさが大分違うような気がするのは…きっと水面下に広い区画を隠している、ということで。
・ソナーマンに自艦のオーケストラはうるさくないのか、とも思うが「溝口は特殊な聴力の持ち主」ということで。
・中村倫也の贅沢な使い方。(大量の水をかぶる中での一人芝居)兄は死亡時2曹だったのは、まあ年齢的に妥当なところか。(ちなみに現在の弟は海士長。任期大丈夫かな?)
・入江兄が浸水事故で死亡し入江弟が代わりに海江田の艦に乗ったが、海江田は入江弟に何のリスクも感じなかったのか、謎である。(続編で明かされる?)
・他の潜水艦が圧壊したり破壊されそうになる寸前、ソナーマンがヘッドホンを外すのは、轟音から耳を守る意味もあるのだろうけど、「人(船)が死ぬ(不幸に陥る)瞬間を見たくない(聞きたくない)」人間らしさも感じた。
・そういう意味で、第7艦隊がやまとへの攻撃を手加減したのも、「核を持ってるかもしれない相手に対し慎重だった」というより「積極的に自分らを殺しに来ている訳でもない(やろうと思えば不意打ちかつもっとえぐいやり方で自分達を壊滅させることもできたがやっていない)相手を沈めることへの躊躇」という捉え方の方がしっくりするような気がした。
・米軍士官を独房に監禁しなかったことといい、空母の前にわざわざ浮上することといい、海江田の戦略はガンジーの対英独立闘争と同じく、相手の倫理観に訴えながら淡々と進められる印象なのである。
・その一方で迷わず「撃沈しろ」と命令を下すスタイガー司令官や、「守る・交渉するには力が必要」とのたまいシーバット捕獲だけにこだわる海原父や曽根原防衛大臣の非人道さが際立つ。
・多分米軍核弾頭の残数は大統領や司令官には筒抜けのため、海江田のブラフがバレバレだった可能性が高い。もう少し「もしや本当に核弾頭を積んだのかも」と信じさせるような背景を練って提示しておいても良かったのかもしれない。今のままでは第7艦隊司令官がただのビビりに見えてしまうのである。(深町らが射程圏外に出てから「やまと」に攻撃を仕掛けるあたり、良識的な人物には違いないのだが。)
・戦闘シーンはさすが海自監修だけあって真に迫っていた。
・また肩書や艦名が変わるごとにテロップも変化する細やかな演出も。
・胡散臭いが殺しを積極的に行ってる訳ではない海江田とヒーロー深町の物語だから海自も協力したのだろうなと。
・フィリピン沖で沈船にぶつかった米潜水艦乗員の安否は不明なまま(多分救出された?)。
・手塚とおるさんの役どころのモデルは…恐らく河野克俊さん。
・ベネット大統領とその側近は、人種・顔立ち・立ち位置からしてブッシュ(息子)大統領とパウエル国務長官をモデルにしているのかなと思った。(作中話している内容「アメリカはリヴァイアサンであるべき」が、確かに彼らの政権のイメージに近いのである。)
・終始クジラにたとえられていた海江田の艦。「知能が人間に近い」と白人から愛される存在である筈なのに、自分の意志で行動すると問答無用で殺されかける相手の都合に左右される存在(本物のクジラも油とるためだけに乱獲された時期がある)。原作は既読であるが、このクジラの旅路がどういうものになるかは気になるところである。
・市谷さんの活躍は次回以降ということで。(原作のデミルのように各国首脳から嫌われるレベルの発信力は得られるのだろうか。)
・ED曲の最初のフレーズがB'Z「Alone」?と思ったのは自分だけではない筈。
・採点はまだ不完全で次回作以降への期待を込めて4.0ということで。