「大沢が見せる覇気が素晴らしい。微動だにしません。なのに、その存在感と威圧感がすさまじいのです。「キングダム」での王騎将軍並みのカリスマ的存在感を見せてくれました。」沈黙の艦隊 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
大沢が見せる覇気が素晴らしい。微動だにしません。なのに、その存在感と威圧感がすさまじいのです。「キングダム」での王騎将軍並みのカリスマ的存在感を見せてくれました。
原作は累計発行部数が3200万部を超えるかわぐちかいじの同名漫画。1988~96年の連載から長い時間がたってはいますが、作品を貫く「平和」への思いに触れれば、今、実写化に挑んだことに多くの人が納得することでしょう。大迫力の映像と合わせ、日本映画の底力を見た気がします。
主演兼プロデューサーは大沢たかお、監督は「ハケンアニメ!」で注目された吉野耕平。
主演の大沢は、この映画や『キングダム』シリーズのプロデューサーである松橋真三と日本の未来像についてよく語り合い、その中からこの漫画の実写化案が生まれたといいます。
改めて漫画を読み直した大沢は「ウクライナ侵攻の前でしたが、中国と台湾の間の緊張が高まるなどしており、日本はどうしたらいいのかを考えるきっかけになるような映画を作ってもいいのではないかと考えました」と明かしています。
大沢はかわぐちかいじへの企画説明の際のほか、防衛省や自衛隊への協力要請の際にも自ら連絡を取るなどプレゼンに奔走しており、同じくプロデューサーの松橋真三と共に各地へ足を運んだそうです。そういったことからも、撮影に際しては日本で初めて海上自衛隊潜水艦部隊の撮影協力を得ており、実際の海上自衛隊潜水艦が使用されています。
なお、本作品はAmazon.com傘下の映画スタジオであるAmazonスタジオが製作しました。同スタジオが日本映画の製作に携わるのは本作品が初めてとなります。
■ストーリー
日本近海。海上自衛隊の潜水艦が米国の原子力潜水艦に衝突、沈没します。艦長の海江田四郎(大沢たかお)ら全76名が死亡との報道に衝撃が走ります。しかし実は、乗員は無事生存していたのです。
この事故は、日米政府が極秘に建造した高性能原潜〈シーバット〉に彼らを乗務させるための偽装工作だったのです。米艦隊所属となったシーバット、その艦長に任命されたのが海自一の操艦を誇る海江田でした。
しかし艦長となった海江田は同艦に核ミサイルを載せ、試験航海中に逃亡。日米に追われる身となりますが、海上で海江田を国家元首とする独立戦闘国家「やまと」の建国を宣言します。
やまとを核テロリストと認定し、太平洋艦隊を集結させて撃沈を図るアメリカ。アメリカより先にやまとを捕獲すべく追いかける、海自ディーゼル艦〈たつなみ〉。その艦長である深町(玉木宏)は、過去の海難事故により海江田に並々ならぬ想いを抱いていました。
■解説
わたしはかわぐちかいじの原作マンガをリアルタイムで読んでいました。長い原作のなかで、本作はこの後どうなるのか、というところで映画は終わります。『キングダム』同様に続編への壮大な予告編的な位置づけなのかもしれません。そのため海江田の語る独立宣言について原作を知らない人は、海江田の憂国的セリフ回しや表情だけでは腑に落ちないと思います。原作が抱えるメッセージ性は希薄に思われることでしょう。
それでも素晴らしいのは、大沢が見せる覇気です。発令所では両手を後ろに組んだまま立ち、部下に指令を出すのです。時折無線を手に取るのですが、微動だにしません。なのに、その存在感と威圧感がすさまじいのです。「キングダム」での王騎将軍並みのカリスマ的存在感を見せてくれた大沢に、たとえ何章まで続いてもついていこうと決めました。
一方、海江田を追う海自の後輩・深町(玉木宏)は所狭しと動き回ります。この2人の対照的な描写が、映画に良いアクセントを付けていました。
魚雷を撃ち、対潜水艦ミサイルが飛ぶ。潜水艦は傾き、激しく揺れる。戦闘場面はスペクタクルの連続です。中でも防衛省と海自の協力を得て、潜水艦にカメラを搭載して撮った映像には息をのみました。今回はこれだけでも充分な見応えです。
ストーリー的には続編があるのなら、次回がストーリーのヤマ場となることでしょう。海江田の構想がより明かとなり、「やまと」から指名された日本政府が「やまと」と同盟をくむのかどうか。そして「やまと」を全力で潰しにくるアメリカ太平洋艦隊との死闘などどう描かれていくのかに期待しています。