劇場公開日 2023年4月22日

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「最小限の方法で最大限のことを表現している」J005311 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5最小限の方法で最大限のことを表現している

2023年4月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

100万円で目的地まで車で運んで欲しい。そんなヤバい頼み事をされると、誰だって怪しむはずだ。何かの冗談なんじゃないか?途中で何かされるのではないか?変質者なんじゃないか?100万なんてそもそも持ち合わせてないのではないか?目的地などないのではないか?

しかし、依頼者と渋々請け負う街角のチンピラのロードは、徹底してセリフを排除することによって、下車したいのにできない不思議なジレンマに観客を追い込んで行く。同時に、2人が同じように追い詰められ、絶望的な日々を送ってきたことを暗示させる。すると、不安なドライブは切ない"道行き"にも見えてくるのだ。

物語のスタート地点で感じさせる不自然さはある。走破するのには少し我慢も必要だ。でもそれは、作り手たちの描きたいことへの強い思いによってかき消されて行く。

何よりも、最小限の方法(2人だけの寡黙なロードムービー)によって最大限のこと(かすかな共感と希望)を表現したことが凄いと思う。本作がPFFで全員一致のグランプリに輝いたのは、描きたいことを我慢して最小限に抑えた作り手たちの忍耐力が評価されたからではないだろうか。

清藤秀人