「それでもこの世界は存在し、存在しつづける」マリウポリ 7日間の記録 penさんの映画レビュー(感想・評価)
それでもこの世界は存在し、存在しつづける
絶え間なく続く砲撃の音。そして7日間の間に定点観測のように撮影された場所の映像からは、避難先の教会も含め徐々に破壊の度が強まっているのがわかります。映像はありませんが、その爆弾の被害にあった住人の無残な姿が、目撃者の話として伝えられており、悲惨な状況が伝わってきます。
そんな中でも、男は明るい陽光を浴びながらたばこを吸う。命中するかもしれないのに。教会に避難している女は生活のための会話をする。明日のことはわからないのに。そして子どもの声がある。犬との戯れがある。男達の政治談義もある。ちなみに政治談義はウイットにとむもので、プーチンの名はひとつも登場していませんでした。ロシア系やウクライナ系だけでなく、ギリシア系住人がいる多様性の地域だからでしょうか。どこかに組することに対する危うさを肌感覚として感じているからなのかもしれません。
つまり、戦争の中でも、人は生きなければならない。他に行き場はないのですから。明日餓死するかもしれませんが、食料がある限り食べ、会話し、排泄し、笑い、泣き、建物はどんどん破壊されてもそのたびに、がれきを整斉と掃除する。そうした日常の営みを繰り返さざるを得ない。両国政府による情報戦のためのフェイク映像ではなく、記録されていたのはそうした名も無き人々の生きる真実の姿でした。
砲撃の音の中、硝煙を照らす陽光の中に逆光で映し出された若い人と思しき人影の映像、朝の小鳥や鶏の変わらぬ鳴き声。
そうしたものが、この世界が、確実に存在し、存在しつ続けるだろうこと告げていているような気がしました。
今、ちょうど、テレビでウクライナ戦争のニュースがあっています。
G7サミットとも絡めて、近いうちに始まるであろう反転攻勢の話題です。
私がテレビを見ているこの瞬間も、この映画のような営みが繰り返されているのですね。
映画に登場した人々(もちろん、彼らだけではありませんが)の無事を祈ります。