「ふたつの名前」パスト ライブス 再会 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
ふたつの名前
日本や韓国、中国人などアジア人がアメリカに移住すると「アメリカンネーム」を設定する人が多い。アジア人の名前はアメリカ人には覚えにくいし発音しにくいからだ。この映画は韓国人一家が北米に移住し、一家の娘がアメリカンネームを決めるところが冒頭に描かれる。
ノラと自身のアメリカンネームを名付けた彼女は以後、自分のアイデンティティをノラとして生きていく。考え方も生き方もアメリカに生きる女性として、彼女は成長していき、白人の夫アーサーもできる。韓国人の母親ですら、彼女のことをノラと呼ぶ。
そんな彼女を韓国名で唯一呼ぶのが、韓国時代の幼馴染の男性、ヘソンだ。24年振ぶりに再会した2人には不器用だけど、あたたかな時間が流れる。アーサーはノラとヘソンの間にある強い何かを感じで疎外感を覚える。
名前は重要なアイデンティティだとすれば、彼女の韓国名ナヨンを知るヘソンは、彼しか知らない彼女のアイデンティティを知っていることになる。
作中では、縁(イニョン)という言葉で愛とは異なる特別な絆が説明される。カルチャーの違いと乗り越えられない何かがありながら、それとは別に生活のレイヤーがあり、そこにも手放せないものがある。とても上質なすれ違いのメロドラマ。
エンドクレジットでは主人公の名前はノラとだけ記載されていた。彼女はこれから一生ノラとして生きていくのだろう。ナヨンはヘソンの心の中にだけ生きるのだろう。
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