「幻想が妄想になっていくのを止めるのは現実的な彼女の言葉」パスト ライブス 再会 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
幻想が妄想になっていくのを止めるのは現実的な彼女の言葉
2024.4.6 字幕 TOHOシネマズ二条
2022年のアメリカ&韓国合作の映画(106分、G)
12歳の時に離れ離れになった幼馴染の24年後の再会を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はセリーヌ・ソン
原題の『Past Lives』は「前世」という意味
物語の舞台は韓国のソウル、12歳のナヨン(ムン・スンア)とヘソン(イム・スンミン)が描かれて始まる
クラスで成績優秀の二人は、いつもナヨンが1位で、ヘソンが2位だった
だが、この時はヘソンが初めて勝ち、それが原因で彼女は泣いてしまう
ヘソンは「僕はずっと2位だったけど泣かなかった」と、ナヨンを慰めた
二人はお互いに好き合っていて、その関係がずっと続くと思っていたが、ある日、ナヨンは家庭の事情で、カナダのトロントに移住してしまうことになった
お互いの母親は二人に思い出を作らせてあげようと、果山国立公園へと出向く
別れを惜しむナヨンに、母(ユン・ジヘ)は「失うものがあれば得るものもある。あなたも彼に何かを遺してあげなさい」と言った
物語は、その12年後、24歳になったナヨン(グレタ・リー)が、父(チェ・ウェニョン)のFacebookにて、ヘソン(ユ・テオ)メッセージを見つけるところから動き出す
カナダに移住することになったナヨンはノラという英語名で活動していて、ヘソンは彼女を見つけることができなかった
ナヨンはヘソンに友達リクエストを送り、それによって二人は、12年ぶりに「パソコンの画面上」にて再会することができたのである
映画では「イニョン(인연)」についての奥深さと輪廻転生、前世についての関わりが描かれていた
さらに12年後にあたる、36歳の二人の再会にて、彼は「ナヨンは今世では去る人なんだ」と思うようになっていて、それはナヨンの「あなたが愛した12歳の私はもういない」という言葉によるものだった
心と言葉が裏腹になっている二人だが、ヘソンはナヨンと今の夫アーサー(ジョン・マカロ)との関係に踏み込みたくないと考えていて、さらに彼女の言葉が自分の感情を整理してくれたことに感謝している
バーで3人が話すシーンが冒頭にあって、そこで男(アイザック・パウエル)と女(Chase Sui Wonders)の会話が流れてくる
3人の関係はどうだろうと話す、彼らの想像をはるかに超えた関係が、そこにはあったと言えるのだろう
映画は、俯瞰して見ると「自分のことを24年も想ってくれている男がいる」という前提で再会することになっていて、その想いの源泉が打ち砕かれていく様子が描かれていく
寄りを手繰り寄せる世界線がありそうだが、これまでヘソンを支配していたものからの解放になっていて、逆にナヨンの方が過去に縛られる人生を送ることになる
24歳の時に話さないことを決めたのもナヨンで、その後アーサーを誘惑したのも彼女だった
その間にヘソンも上海の交換留学生(ファン・スンオン)と出会い恋仲になるものの、彼は彼女と結婚するイメージが持てていない
その理由はナヨンがいたからで、それらの想いが「直接会うことによって」ある種の幻想との別離へと繋がる
二人の関係を切ったのもナヨンの言葉「12歳の私はもういない」であり、この言葉によってヘソンは「今世では去っていく人なんだ」と結論づけるのである
いずれにせよ、ビターエンドの作品で、24年間のヘソンの執着が、そのままナヨンに移行する様子を描いていく
これまではナヨンを守るのは自分だという想いがあったものの、これからはアーサーがその役割を担うことになる
アーサーの心情は心苦しいものがあるが、それが妻の選択でもあるので、それを受け止める以外に方法はない
二人が結婚9年目に入っても子どもがいない原因の一つがヘソンとの過去である可能性もあり、今の複雑な関係は子どもが生まれることで解消される可能性はある
問題は、それまでにナヨンの心が保つのかというところだが、彼女なら立ち直るのではないかと思えてくる
これが誰の過去のお話かはわからないが、それを乗り越えた今があるから作品として仕上がっているのではないだろうか