ザ・キラーのレビュー・感想・評価
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ザ・キラー
2023年間違いなくぶっちぎりのベスト映画。
スタンディングオベーションも全く疑わない。
フィンチャーは一体いつまでこんな映画に挑戦的な姿勢でいるのだろうか。いつも新しい表現を模索し、切り拓き、それでいて古典的で美しい。
フィンチャーの映画としてやはり大きいのは完璧で洗練され尽くしたカット割とカメラの動かし方だろう。徹底した人物追従主義。寄るところは寄って、引くところは引く。常に全体を見せて全知的な目線ながら、アングルと光を使って感情を見せていく。とんでもないぞ本当にこれは。今のこの地球上にここまで洗練された映像と人間ドラマを描ける監督がいるだろうか。最近の流行りの監督兼脚本のような監督たちにはできない芸当だろう。
さらによかったのは終わり方。しっかりしたオチや感動物語を押し付けるようなものではなく、やはりお客さんに考えさせるような、提示だけをする清々しさ。そこに作為は全く見えない。だからかフィンチャーの映画はどんなにあり得ないテーマでものめり込める。
・『生の感情』はあったか
感情の分かりやすい爆発というと少なかったように感じた。しかし、表情が陰で曇っている分、どんな感情なのか、何を考えているのか考察しようとする感覚が生まれていた。
・『緊張感』はあったか
この映画はほとんどのシーンをこれに費やしていると言っても過言ではないだろう。完璧なサスペンス。常に緊張感に追われ、最後のエンディングまで緊張感は続く。
・『謎』があったか
主人公が狙う人物や、どこにどの人物がいるのか、すべて主人公しか知らない。それを順を追うごとに明かされていく。きっとフィンチャーの映画にどんでん返しや伏線回収を求めている人たちは落胆したんだろう。そんなクールじゃないもの、この映画にいらない。フィンチャーの映画の肝はそこではなく、社会的に悪い立場の人間が日の目を見ようと努力する人間ドラマなのだ。そこをわかっていない人たちが批判するのはわかるが、実はちゃんとエンタメとして楽しんでいる自分がいることを知っているだろう。
総じて、フィンチャーの映画を劇場で生きているうちに見れていることだけをとってもこの命を授かった価値があるというものだ。
こんな映画が作りたいなぁ。僕も頑張ろう。
職業に貴賎はない
この理念を貫き通したお仕事映画。
ちょっとした仕事上のミスを延々なじる上司にうんざりした主人公、彼独自の誠意ある対応で関係者各位に挨拶回りする話です。殺し屋でなくとも、セールスマンや料理人とかにも照応できそうなのがミソ。
果たして意識しているのかいないのか、自分にはどうしても主人公がフィンチャーをモデルにした完璧主義者にしか見えなくて困りました。そうすると終盤に出てくる依頼主はNetflix?こういう雑な見立ては作品を矮小化してつまらなくしてしまう大変駄目な見方です。しかしファスベンダーのモノローグは、フィンチャーが(自宅で奥さん相手とかに)いかにも喋っていそうな、奇妙なリアリティを感じたりもしました。
【今作は、自分自身を様々なルールで律しながら、”THE SMITHS”の数々の名曲を聞きながら冷酷に仕事をこなす殺人者の姿を、ヒリつく緊張感を漂わせながら、スタイリッシュに描いた作品である。】
ー 冒頭から、”THE SMITHS”のヒット曲を聴きながら、殺人者(マイケル・ファスペンダー)は、孤独感を漂わせつつ、仕事を熟そうとする。
仏蘭西で、ターゲットの帰宅を対面の無人の事務所の中で只管に待つ殺人者の姿。モノローグで彼が自身に律している事が語られる。
そして、漸くターゲットが帰宅した時に、彼は落ち着いた素振りでライフルを組み立て、”THE SMITHS”の”How Soon Is Now?"をチョイスし、ターゲットを撃つがターゲットの前に現れたレザー服に身を固めた娼婦に当たってしまう・・。-
◆感想
・殺人者は仕事にしくじった後に、ドミニカの隠れ家に戻るが、異変を察知し室内に入ると割れたガラスが散乱している。
ー 殺人者は同居の女性が収容された病院に行き、彼女を見舞う。
”THE SMITHS”の”Girlfriend In A Coma"が流れる・・。ー
・その後、彼は隠れ家を襲った男女を乗せたタクシー運転手を突き止め、情報を聞き出し躊躇なく、射殺。
・そして、飛行機に乗り”仕事”の斡旋人”のホッジス弁護士の事務所に清掃員に紛争し、入り込み、ホッジス弁護士から男女の情報を得ようとするが拒否され、殺害。秘書の中年女性が情報を知っていると言い出し、彼女から情報を仕入れコレマタ、殺害。
ー ホッジス弁護士の事務所に入り込むときの、運送屋の後について行き事務所の扉が閉まる時間を数え、運送屋が帰る際にカウントしながら、ドアが閉まる直前に足を入れ込むシーン等は、ナカナカである。
そして、彼が律している事の一つ”情に流されるな・・。”を忠実に実行する姿。-
・得た情報を基にコレマタ飛行機で男が住む国に飛び、壮絶な格闘で倒し、更に飛行機でエキスパートの女(ティルダ・スィントン)が住む寒き国に行き、彼女がレストランに入った際に、彼女の前の席に座る殺人者。
エキスパートの女は、複数のウイスキーをテイスティングしながら、落ち着き払い、男に対し”熊と猟師”の話をする。
ー 緊迫感が凄いシーンである。ティルダ・スィントンの存在感も抜群である。そして、二人は外に出て、殺人者は彼女を躊躇なく射殺する。-
・そして、彼は再びいつものように全く違う名前とパスポートを飛行場のカウンターで提示し、殺害案件を出した顧客の男の家に、難なく忍び込む。
ー ココも、緊迫感が凄い。だが、殺人者は男に対し”簡単に入れる事を示したかった。次は・・。”と男を威嚇し、その場を去るのである。-
<ラスト、彼はドミニカの隠れ家に戻り、今までに見せた事のない柔和な表情で、デッキチェアで寛ぐ怪我を癒す同居の女に飲み物を作り、自身もデッキチェアに仰向けになりながら、陽光を浴びながら寛ぐのである。
今作は、”THE SMITHS”の”Shoplifters Of The Word Unite""This Charming Man"など多数の名曲を随所で流しながら、一人の殺人者の仕事のミスにより行われた事に対し、自身を律する多数の決め事に従い、多数の名前や幾つかの隠れ家、倉庫に隠してあった武器を駆使して報復する姿をヒリつく緊張感を漂わせながら、スタイリッシュに描いた作品である。>
ミニマル
一般人がキラーになれてしまう現代社会への風刺?
開幕の長い語りからの任務失敗という間抜けさに違和感を覚え、そこから散りばめられた主人公のずさんさを表す描写によって、彼が暗殺者に憧れを抱く素人上がりのキラーなのだと思うようになった。
根拠となる場面をいくつか羅列したい。
開幕の配達員が扉を開けていたらそもそも任務が失敗していた点、偽装ナンバープレートを普通にゴミ箱に捨てていた点、購入履歴が残るAmazonやホームセンターで暗殺アイテムを購入していた点、出航したてで港が近いのにも関わらず証拠を海に捨てていた点、ピットブルが生きていた点、防犯カメラに撮られていた点などなど。
主人公と対比で描かれる綿棒ベテランキラーに姿を晒した心理を見透かされたことや、ベテランキラーのように住宅地に紛れずに豪邸に住んでいることなどを含めて、主人公はその道のプロ暗殺者とは異なる様子で描かれている。
また、劇中で主人公がよく聞いていたザ・スミスのバンド名の意味・理由は「スミスという英国でありふれた人名でも目立ってもいいんじゃないか」といったものらしい。(インタビュー談)
本作のタイトルである『ザ・キラー』が「ザ・スミス」、つまり「ザ・一般人」と重なって見えてくるのである。
となると、作中でしきりに描かれていたカーナビやAmazonの通販や配達システム、レンタル倉庫などの現代の便利なサービス達にも意味が生まれてくるように思う。
この作品が示す真の恐怖は、便利になった現代では、一般人ですら暗殺者として仕事をこなすことが出来てしまうという現実であり、日常ですれ違う全員がキラーになりかねない、あるいはキラーである可能性があることなのである。
ここでフィンチャーの記者会見でのインタビュー談を引用して終わりたい。
「この映画を観たら、ホームセンターで後ろに並んでいる人を怖いと思って欲しい。」
暗殺者とシンクロする二時間。
原作はグラフィックノベルということで、本作の質をここまで高めたのは「セブン」の脚本家のなせる業か。
現実に存在するかもしれないプロの暗殺者の心理を作家的感性で想像を膨らませ、ここまでリアリティを感じさせるまでに重厚な筆致で描いた手腕はお見事。
全編暗殺者の主人公の一人称で語られる本作は、いつしか観るものが知らず知らずにこの暗殺者の心理と同化していくような錯覚を覚えるほどのリアリティーを感じさせてくれる。
主人公の暗殺者は知性的で几帳面、合理的思考の持ち主、そして健康志向でもある。その知識は無辺世界、ディラン・トマスといった仏教用語からウエールズの詩人まで、またあらゆる統計的知識と多岐にわたっている。かつては法律も学んでいたという。それらの知識すべてが彼の仕事のためだけにある。すべては目的を達成するためだけに。
それらの教養やあらゆる暗殺スキル、加えて目的達成のために最も欠かせないもの、それは自身の感情のコントロール。
計画を重視し、即興は避ける。対価に見合う戦いのみを行う。誰も信じるな。感情移入はしてはいけない、それは弱さにつながる。彼は仕事を行う際には頭の中でそれらを何度も反芻する。完璧に仕事をこなすためには自身のマインドコントロールが不可欠だからだ。
たとえ熟練の暗殺者であろうとも人間である限り感情が邪魔をすることがある。仲介人の弁護士の秘書、同業の女性を手にかけるとき、情に流されまいと彼は感情移入を強く拒絶する。それこそが彼の持つ人間らしさでもある。
冷徹で完璧を目指していながら、偽装ナンバープレートを無造作にごみ箱に捨ててしまう。冷徹な暗殺者でありながら人間的弱さもやはり併せ持つ、そんな彼に感情移入してしまっている自分がいた。
暗殺に失敗したがために、クライアントに命を狙われることとなってしまった主人公。彼は仲介人や同業者たちを片付け、クライアントのもとにたやすく近づけることを証明し、暗殺者としての株を上げた。これでしばらくは自分を殺そうという考えにはならないだろう。さらに一目置かれることとなった主人公は一時の安心を手に入れたのであった。
Amazonでのスマートキー購入、スマホによる地図検索、スマートウォッチによる心拍測定、たまりまくりのマイル等々、細かなディテールにこだわって想像で描かれた暗殺者の生態、それはいまのこの社会に本当に存在しているのではないかと思わせるほど我々鑑賞者に真に迫ってきた。
フィンチャー、ファスベンダーがコンビを組んだ新作と聞いて期待大で鑑賞に臨んだが期待以上の出来で大満足。
最近のアクションだけに特化した中身のない殺し屋ものには辟易していたのでこういう作品は大歓迎。
お喋りな殺し屋
大半がモノローグでした。誰かと本当は話したいけれど、職業柄それは無理だ。だから架空の話し相手に延々と殺し屋の心構えを語り、それを自分への言い聞かせにしているのだろう。それともあまりの緊張と孤独とストイックな環境の中、少し変になってしまったんだろうか。それとも「殺し」を「映画作り」に置き換えてフィンチャー自身の思いと考えればいいんだろうか?
いずれにせよ、「即興はダメだ」を何回も言ってたから最後は即興してくれるかと期待してしまった。
笑えて共感できた2箇所!
1)パリではドイツ人のいでたちをする。目立たないしドイツ人は嫌われているから誰も話しかけて来ない。
2)「綿棒」みたいな女と言ってたな。ああ、あの女か!
一人称ハードボイルドの世界
めちゃめちゃヒリつく。主人公のモノローグといい、ルックといい一人称ハードボイルドの世界にどっぷり浸かれる。
マイケル・ファスベンダーの雰囲気は、殺し屋というよりもサイコキラー。主人公は、仕事を確実にコンプリートするために、自分にルールを定めている。
脈拍が安定した状態でしか、引き金を引かない。
計画通りに行う。
即興なことはしない。
相手に感情移入はしない。
などなど。
しかも、鉄則から逸脱して自分を危うくしないように、自分に言い聞かせながら行動する。
各地に隠れ家があって、そこには銃器、現金、偽造パスポートが準備されている。殺し屋が主人公のハードボイルド小説や映画でおなじみの設定ではあるが、一般人にしか見えないマイケル・ファスベンダーの風貌がリアリティを高めている。
あちこちで女を口説くなんて、危うい行動は全くしないし、お金はたんまりとあるのに飛行機はエコノミーで周囲に溶け込む徹底ぶり。
ストイックで寡黙なハードボイルドが大好きな自分にとっては、主人公になりきった気分でひりつく時間を堪能しちゃいました。脈拍を抑えるなんて無理でございます。
タイトルなし(ネタバレ)
妹が襲われて復讐をきめてからは貸し倉庫に並んだたくさんのナンバープレートやパスポートとかオートロックが閉まるまでの数秒をカウントするのとか獰猛なピットブル寝落ちさせるとか殺し屋っぽいグッズや所作にワクワクしたけど
どう考えても最初の失敗しょぼすぎ、自分語り長めの冒頭の待ちの時間が壮大なフリになってしまってた
女王様の動きは読めなかった!
いや、ダメだろ!?
想定外の事態に陥った暗殺者が抗い立て直す話。
仕事に臨む主人公が暗殺者の主張的な自分語りナレーションをタラタラ語るオープニングから、イヤ〜な予感はしたけれど、仕事もタラタラ悠長に構えて…コメディですか?
コメディにするならまだ良いけれど、予測しろだとか確実にだとか、出来ていないからこの結果だろうに、スカして語れば語るほど安っぽくみえるんですが…。
非暗殺者と痕跡残しちゃうレベルの暗殺者としか対峙せず、ザ・キラーじゃなくてザコキラーですか?
結局自分の尻を拭う訳でもなく、これでこの人にこれから仕事の依頼は来るんでしょうかね…。
ザ・スミスが好きならもっと加点できた
殺し屋を描く物語もだいぶ多様化してきた。アクションよりのものやコメディよりのもの、ゆるーい日常を描くもの。本作は、地味系独白タイプの殺し屋だ。
冒頭の殺しのシーンが意外と長い。しかもほとんどが待つ時間。退屈に耐えられない人は殺し屋映画を観てはいけないってことか。
でも、その後は彼女と自分の身を守るために、各国を飛び回るあたりから面白くなる。アクションというよりも、事前の準備で彼の殺し屋としてのスキルの高さを見せていくのが特徴的。どんなセキュリティの高いところでも難なく入れるんじゃないかと思えるくらいに彼のスキルは高かった。しかもあまり特別なことはしていないんだから怖い。
これ、グラフィックノベルを原作にしているだけあって、全体的にハードボイルドな雰囲気でシブい。だから、ものすごくテンションが上がるわけではないし、ドキドキ・ワクワクもあまりない。ただ、トレント・レズナーが手がける音楽はさすが。あの不協和音が醸し出す不穏な雰囲気はさすがの出来だった。そういう意味ではフィンチャーっぽい映画ではあるが、期待値が高かったのか個人的にはあまり心に響かなかった。メインに使われたのがスミスじゃなかったらもっと高い点数になっていたかもしれない。それくらいに殺し屋のあの実直な感じとスミスの曲は妙にマッチしていた。逆にスミス好きならたまらないんじゃないかと思う。
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