「天才ではない殺し屋」ザ・キラー sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
天才ではない殺し屋
ターゲットが現れるのをひたすら待ち続ける一人の殺し屋。
とにかく頭の中ではとても饒舌な男だ。
思考、思考、また思考。
苛立つこともなく冷静に待ち続ける彼の姿から、かなりの手練であることが伝わってくる。
やがて彼の前にターゲットが姿を現す。
「計画通りにやれ。予測しろ。
即興はよせ。誰も信じるな。決して優位に立たせるな。
対価に見合う戦いにだけ挑め。
感情移入はするな。感情移入は弱さを生む。」
男は自分に言い聞かせる。
これがプロの殺し屋の流儀なのだろうか。
そして男はターゲットに狙いをすまして銃弾を撃ち込む。
が、何と的は外れ、無関係のコールガールに当たってしまう。
動揺した男はそれでも証拠を残さないように現場を後にするが、このミスがきっかけで彼は岐路に立たされることになる。
男が何度も自分に同じ言葉を言い聞かせるのは、彼が冷酷な殺し屋になり切れていない証だろう。
彼が仕事に失敗したせいで、何の関係もない彼の妻は襲われ大怪我をしてしまう。
男は様々な手がかりを辿り、自分に殺しの依頼をした人物を含め、事件に関わった者全員に復讐を誓う。
この映画の面白さはやはりこの殺し屋の男のキャラクターにあるのだろう。
いくつも名前を持っているので、どれが本名かは分からない。
めったに口をきかないが、頭の中では相変わらずよく喋る。
殺し屋としては天才ではないのだろうが、狙った相手を確実にしとめる姿は非道であり、寒気を感じさせる。
が、感情移入するなと自分に言い聞かせながらも、相手の要望を受け入れてしまう弱さも持っている。
そしてすべてが計画通りに行くとは限らない。
あえて危険の中に飛び込んでいくのは、彼自身がターゲット相手とはいえ、人との繋がりを求めているからだろうか。
作風はシリアスでありながら、どこかコメディを思わせる部分もある。
ややクセの強い作品なので、好き嫌いは分かれそうだと感じた。