劇場公開日 2023年10月27日

「ザ・キラー」ザ・キラー tyshiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ザ・キラー

2023年10月30日
iPhoneアプリから投稿

2023年間違いなくぶっちぎりのベスト映画。
スタンディングオベーションも全く疑わない。
フィンチャーは一体いつまでこんな映画に挑戦的な姿勢でいるのだろうか。いつも新しい表現を模索し、切り拓き、それでいて古典的で美しい。

フィンチャーの映画としてやはり大きいのは完璧で洗練され尽くしたカット割とカメラの動かし方だろう。徹底した人物追従主義。寄るところは寄って、引くところは引く。常に全体を見せて全知的な目線ながら、アングルと光を使って感情を見せていく。とんでもないぞ本当にこれは。今のこの地球上にここまで洗練された映像と人間ドラマを描ける監督がいるだろうか。最近の流行りの監督兼脚本のような監督たちにはできない芸当だろう。

さらによかったのは終わり方。しっかりしたオチや感動物語を押し付けるようなものではなく、やはりお客さんに考えさせるような、提示だけをする清々しさ。そこに作為は全く見えない。だからかフィンチャーの映画はどんなにあり得ないテーマでものめり込める。

・『生の感情』はあったか
感情の分かりやすい爆発というと少なかったように感じた。しかし、表情が陰で曇っている分、どんな感情なのか、何を考えているのか考察しようとする感覚が生まれていた。

・『緊張感』はあったか
この映画はほとんどのシーンをこれに費やしていると言っても過言ではないだろう。完璧なサスペンス。常に緊張感に追われ、最後のエンディングまで緊張感は続く。

・『謎』があったか
主人公が狙う人物や、どこにどの人物がいるのか、すべて主人公しか知らない。それを順を追うごとに明かされていく。きっとフィンチャーの映画にどんでん返しや伏線回収を求めている人たちは落胆したんだろう。そんなクールじゃないもの、この映画にいらない。フィンチャーの映画の肝はそこではなく、社会的に悪い立場の人間が日の目を見ようと努力する人間ドラマなのだ。そこをわかっていない人たちが批判するのはわかるが、実はちゃんとエンタメとして楽しんでいる自分がいることを知っているだろう。

総じて、フィンチャーの映画を劇場で生きているうちに見れていることだけをとってもこの命を授かった価値があるというものだ。
こんな映画が作りたいなぁ。僕も頑張ろう。

tyshi