「暗殺者とシンクロする二時間。」ザ・キラー レントさんの映画レビュー(感想・評価)
暗殺者とシンクロする二時間。
原作はグラフィックノベルということで、本作の質をここまで高めたのは「セブン」の脚本家のなせる業か。
現実に存在するかもしれないプロの暗殺者の心理を作家的感性で想像を膨らませ、ここまでリアリティを感じさせるまでに重厚な筆致で描いた手腕はお見事。
全編暗殺者の主人公の一人称で語られる本作は、いつしか観るものが知らず知らずにこの暗殺者の心理と同化していくような錯覚を覚えるほどのリアリティーを感じさせてくれる。
主人公の暗殺者は知性的で几帳面、合理的思考の持ち主、そして健康志向でもある。その知識は無辺世界、ディラン・トマスといった仏教用語からウエールズの詩人まで、またあらゆる統計的知識と多岐にわたっている。かつては法律も学んでいたという。それらの知識すべてが彼の仕事のためだけにある。すべては目的を達成するためだけに。
それらの教養やあらゆる暗殺スキル、加えて目的達成のために最も欠かせないもの、それは自身の感情のコントロール。
計画を重視し、即興は避ける。対価に見合う戦いのみを行う。誰も信じるな。感情移入はしてはいけない、それは弱さにつながる。彼は仕事を行う際には頭の中でそれらを何度も反芻する。完璧に仕事をこなすためには自身のマインドコントロールが不可欠だからだ。
たとえ熟練の暗殺者であろうとも人間である限り感情が邪魔をすることがある。仲介人の弁護士の秘書、同業の女性を手にかけるとき、情に流されまいと彼は感情移入を強く拒絶する。それこそが彼の持つ人間らしさでもある。
冷徹で完璧を目指していながら、偽装ナンバープレートを無造作にごみ箱に捨ててしまう。冷徹な暗殺者でありながら人間的弱さもやはり併せ持つ、そんな彼に感情移入してしまっている自分がいた。
暗殺に失敗したがために、クライアントに命を狙われることとなってしまった主人公。彼は仲介人や同業者たちを片付け、クライアントのもとにたやすく近づけることを証明し、暗殺者としての株を上げた。これでしばらくは自分を殺そうという考えにはならないだろう。さらに一目置かれることとなった主人公は一時の安心を手に入れたのであった。
Amazonでのスマートキー購入、スマホによる地図検索、スマートウォッチによる心拍測定、たまりまくりのマイル等々、細かなディテールにこだわって想像で描かれた暗殺者の生態、それはいまのこの社会に本当に存在しているのではないかと思わせるほど我々鑑賞者に真に迫ってきた。
フィンチャー、ファスベンダーがコンビを組んだ新作と聞いて期待大で鑑賞に臨んだが期待以上の出来で大満足。
最近のアクションだけに特化した中身のない殺し屋ものには辟易していたのでこういう作品は大歓迎。
職人肌の映画監督がアクション映画を芸術作品にまで高めたらこうなる的な?
私も堪能させていただきました。
撮り方がとにかくこだわり抜いていて、全く無駄のない演出で、本来は大画面で観たかったんですが…
やっぱりフィンチャー最高ですね
レントさん、大丈夫です!動作やセリフの淡々とした繰り返しが観客の心と思考を主人公にシンクロさせてしまう作りなんですね。地味な作りに見えたのでそこまで気が付きませんでした。なんだかとても勉強になります。ありがとうございます!深い
レントさん、そうなんですね。こういう映画の見方がまだわかってなくて残念。フィンチャーがとりわけ好きなので、少しずつ時間をおいたら配信でまた見ようと思います