「こんな世界なくなってしまえ」世界の終わりから SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
こんな世界なくなってしまえ
なんかストーリーが気になったし、「CASSHERN」もわりと好きだったから観てみることにした。
正直悪いところがかなり目につく映画だと思ったけど、世界観とビジュアルは非常に良いと思う。「CASSHERN」と同じような感想…。
悪いところというのは、主に脚本(セリフ)と演技。全体的にやたら素人くさい。大学生が作った映画みたい。
ステレオタイプないじめとか、簡単に暴徒化する一般人とか、一般人に躊躇なく拳銃つきつけたり発砲する政府の人とか、まるでマンガみたいなリアリティの無いシーンがたくさん。
政府の最重要人物のはずのハナの護衛が少なすぎるとか、未来が分かるはずなのにその対策が全然されてないとか(佐伯の死の回避とか)、腑に落ちないところが多すぎる。
終盤になるほど脚本が粗雑になっていく。主人公が不思議な力で政治家とか同級生とか殺したのに、殺人を犯してしまった主人公に何も葛藤が無いのも変だし、世間的にも事件になってなかったりとか。
こういう映画は理屈じゃないんだよ、って言われそうだけど、それはいいわけだと僕は思う。こういう不思議系の話だからこそ、ちゃんと辻褄あわせるべきところはしっかり辻褄合わせないと、理屈で理解できないところや意図的に混乱させたいシーンのねらいがぼやけると思う。
演技に関しては、北村一輝と夏木マリは良かったと思うけど、ほかの人がみんな棒読みに見えた。岩井監督だけは素人くささが逆にいい味出してた(なんで出てんの?って笑ってしまった)。キャストに又吉が入ってるのに気づいて驚いた。どこに出てた? まさか最後に出てたAI?
ストーリーは、「エブ・エブ」と同様、「セカイ系」のバリエーション。巻き込まれ系の内向的な主人公が世界救ってくれって頼まれるやつ。
この映画で一番「おっ」と思ったシーンは、無限が「現実と夢」、「善と悪」のあいまいさを長語りするシーン。このシーンから一気に面白くなりそうな雰囲気をかもしだしつつ、結局ここがピークだった。
こういう個人の心象風景をセカイを救う話に具象化したような話って、それぞれの登場人物が個人の心象の中の何を象徴しているのか、っていうのがすごく重要だと思う。
ユキ、タケル、老婆、江崎、佐伯、是枝、ラギ、シロ、無限、神社の神主、ソラ、それぞれが何かを象徴してるんだと思う。
ユキは、主人公の幼少時のトラウマ。子供の頃の自分。母親を亡くした記憶。もう一人の自分。
だから、この物語は主人公(ハナ)が自分自身を救う物語。
無限は、ユング心理学でいう「タナトス(死の本能)」のようなものか。
この映画のストーリーが変なのは、老婆の目的と無限の目的が途中で入れ替わったように思えるところ。
それぞれのキャラが何を象徴しているのかを明確にして、ストーリーを整理して再構築したらこの映画の真のテーマが見えてくるのかも知れない。
映画観終わって、最後に頭に残ったメッセージが「こんな世界なくなってしまえ」という魂の叫び。ハッピーエンドのようでいて、実はこの映画の問題提起って何も解決してなくないか。
佐伯や是枝との交流を通してハナが成長し、ユキ(トラウマ)を克服する、という感じだったらストーリーとしてはきれいだったけど…。
ハナはユキの救済に失敗して、世界は終わってしまった。でもハナはタイムカプセルを使ってソラに希望をたくして、ソラはタイムトラベルしてユキの両親を救うことにより、すべての歴史は書き換わり、はじめから何も起こらなかったことになった。
これでは結局この映画におけるハナは救われてない。好意的に解釈するなら、ハナは自分自身では自分を救うことはできなかったが、自分のそばにいた人(タケル)や、自分の望みをたくした人(ソラ)に救われた、というエンドということかな。