「夫・・・わたしの知らない他人」アンダーカレント 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
夫・・・わたしの知らない他人
原作もいいのでしょうが、
監督が好きなのことも重なり、上手いなぁ、流石だなぁと
思いました。
父親から譲り受けた銭湯「月乃湯」を夫の悟(永山瑛太)と
経営していたかなえ(真木よう子)。
悟が突然、蒸発した。
かなえにはまったく心当たりがない。
父親が一年前に亡くなり閉めていた「月乃湯」を再開したばかり。
そこへ謎の男・堀(井浦新)が現れる。
①夫の失踪の原因
②謎の男・堀は何者か?
次々と興味を惹かれてわくわくして観ました。
かなえの大学の友達・菅野ようこ(江口のりこ)と再会した所から、
物語りが動き出します。
格安料金で探偵の山崎(リリー・フランキー)を紹介されます。
有能な山崎から知らされる夫・悟の数々の嘘。
本籍地が違うに始まって、小さい時に両親を交通事故で亡くして、
養護施設で育ったとは真っ赤な嘘。
高校まで親元で育ち、
正しかったのは大学の4年間位で、
ようこもかなえも悟との接点は大学でした。
③かなえの心でトラウマとなっている小学校の親友のさなえが
………誘拐されて絞殺されて池に沈められた事件。
映画では何度も何度も何度もかなえの回想として大人のかなえが、
水に溺れたり、首を絞められたりするシーンが再現されます。
ラストのあたりで「月乃湯」の常連のシングルマザー美奈
(内田理央)の娘・みゆが突然連れ去られます。
この事件が無事に解決したのを聞いたかなえは、
突然失神してしまうのです。
子供心に親友が殺された事件がいかに大きな心の傷となっていたか・・・
真木よう子のかなえも、深刻には描かれません。
水の心象風景を多用して、銭湯の湯に浸るシーンも、
沈むシーンも恍惚としたような柔らかな表情です。
井浦新も謎の男・堀の寡黙で誠実で傷ついた心を訥々と演じて、
ラストの慟哭へと繋がる難しい役を、身体全体で表出しました。
後半あと37分でやっと現れる永山瑛太、
(リリー探偵の手腕で発見される)
悟の告白にはかなえも凡人の私も、
驚くばかりですが、
広い世間に犯罪者スレスレ、戸籍なしでも生きていける種類の
人間がいるのですね。
(日本の行方不明者・年間8万5000人との情報)
永山瑛太のカメレオン俳優にも、
そしてリリーさんの役割は大きかったです。
「アナログ」の寡黙な喫茶店主から180度変わって、
ラストでコーヒーを出す演技も同じコーヒーの置き方でも、
何と違うものかとびっくり。
役者たちのほとんどが本気でその役になりきり、
映画のイチピースとして光輝き動いている。
江口のりこも、中村久美も、そして
堀の秘密を誰よりも知る煙草屋の店主・田島役の康すおん。
康さんの働きは大きかった。
一見、講談師のような口調で、重い話を温かくしてくれた。
この「アンダーカレント」は人間の、面の顔と裏の顔。
《あなたの見ている、
《見えている彼は?彼女は?
《そして自分は?》
ホントは、何が見えているのだろう?
見たいものを見ているだけなのではないだろうか?
と問いかけています。
そして描きすぎない手法。
答えを聞こうとする瞬間に画面が暗転。
次には違う場面に切り替わっている。
そしてYMOの細野晴臣さん作曲のピアノ旋律や楽曲が重なる。
重すぎないのに深い映画で、とても好き。
そして、最後のシーン、
かなえのクラと散歩する、
5メートル後ろの人物!!
尾行しているみたいで、ちょっと怪しい距離!