「堀さんの涙」アンダーカレント はたはたさんの映画レビュー(感想・評価)
堀さんの涙
豊田徹也さんによる原作が大好きである
上流の肩の力が抜けた自然さ 穏やかさ 素朴な生活感
それらの下流に確かにある偽り 疑念 他人や自分への諦念
誰しもが持ち合わせ、コントロールしあぐねている心の波の断層を
静かに温かく それこそ映画のような美しさで切り込んだ一冊に 思春期の私は完全に陶酔し、瞼に映像を映しては余韻に浸りまくっていた
そのアンダーカレントが映画化、監督は今泉監督、音楽は細野晴臣という文句のつけようがない布陣が報じられ ドキドキしながら観に行ったが
期待を裏切らない143分でした
ふとした会話の合間合間にギリギリまで溜め込む間
全体的に寒色が強めな静かな色調
年季の入った銭湯兼自宅の美しい庭と調度品
再会と最後の会話に相応しい海辺のロケーション
台詞も概ね忠実で、とても原作の独特な空気感を大事にしつつ
あやとりや蛙でのシーンの繋ぎ方はとても上手だなと思った
そんな原作へのリスペクトが感じられる中、一番驚いたのが 堀さんの涙である
クールで無表情で飄々としていて
クールで(2回目)かっこいい堀さん
原作では涙なんて想像できなかった
映画での井浦新演じる堀さんは 終始どこか困り顔で 背負う哀愁がものすごい
(35.6歳設定にしてはキャストの年齢が少し高すぎないかな…と薄々感じながら観てました)
バスを見送った堀さんが一度目頭を抑えてから静かに歩き出す原作のラストがたまらなく好きなので
その終わり方を踏襲してくれるだろうと勝手に思い込んでいた自分は 家でかなえと食事をするシーンまで続いたことにかなり驚いた
けれど、本当はドジョウが苦手だけれど好きだと勘違いされ続けちゃって もう本当のこと言い出せないんだよね 、と笑うかなえを前に涙と隠していた真相を零す堀さんを観て
ああ これはこれで なんて綺麗な終わり方なんだろうと思った
これは個人の解釈だが、この作品のテーマは「人の多層性、人を分かるということの不確かさ」
そしてこんなにも好きな所以は、美しさもさることながら「悲しみや嘘、本音を下流にたたえながら 静かに 時に激しく流れ続ける今を生きていかなければならない市井の人々による日々の営みへの 作者の眼差しの優しさ」である
言葉にできない ありのままに表せない 本当が分からない「嘘」を
ドジョウのささやかな一件でさらりと表現し
かなえは笑い
堀さんは泣いた
そこには今泉監督による生活への優しい眼差しが見えて、この人が実写化をしてくれて良かったと思えたのだった
素晴らしいアンダーカレントをありがとうございました
(原作との比較雑感)
・湖で堀さんが石を投げるシーン
漫画で狂おしいほど好きなシーンなので、一瞬で終わって残念だった…あそここそたっぷり間を使って映像化してほしかった…!
・山崎さん
リリーフランキーが山崎さんすぎてとんでもなく良かった 自己紹介時の「釣りバカ日誌のハマちゃんと同じです」の言い方で最高のキャスティングだと痺れた
・下着を盗んだ少年を諌めるシーン
ここも堀さんがかっこよくて好きなので、なくて少し残念だった
でも連載作ではない1本の映画で、映画の堀さんの描き方では不要だったのかもしれない
・CharaのDuca
初見の時Ducaを知らなくて、後々聴いた時に カラオケでいきなり振るには難しすぎる!と笑った
どうしてこの曲を歌ったのか不思議だったので、映画にはなくて笑った
Charaを好きになったきっかけでした カラオケでは歌わないけどね