「嘘の本音」アンダーカレント ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
嘘の本音
今泉監督久々の新作という事で鑑賞。遅めの上映だったので人入りは少なかったですがゆったり観れました。原作は未読です。
スローなテンポでの日常ドラマを見せるのかと思いきや、ミステリーの方向へと舵を切っていくという斬新なスタイルの作風に良い意味で振り回されました。
旦那が失踪したため一時期銭湯を休業していたかなえ、近所のおばちゃんと共になんとか営業再開したタイミングで堀さんという方が銭湯に働きに来て…といった感じのゆったりした作品です。
堀さんは寡黙で不思議な人ですが、仕事はしっかりしてくれるし、ご飯は一緒に食べてくれるし、休日でも用事があれば付き合ってくれる、互いに好意は無いにしても少しずつ信頼関係が生まれてくる様子の描き方が本当に上手いなと思いました。
構成自体は前半と後半でガラッと変わるのですが、大きな事件の描写がほぼ無いので怪しげな雰囲気を混ぜつつも根幹にある"嘘と本当"をテーマ的に貫き通していたのには好感を持てました。
失踪した旦那の失踪した理由がその場所にいられなくなった、嘘をつき過ぎて何が何だか分からなくなった、という共感できなさそうで、意外と引っ掛かるところがあるという不思議な共感の仕方ができました。思いっきり引っ叩いていい?と聞くシーンは笑えました。
堀さんがかなえの元にやってきた理由もなんとなくは分かっていましたが、かなえの友達が堀さんの妹で、仕事でふらっと寄った時にかなえが当時のあの子と1発で分かって、どこか罪滅ぼしのような事をしなきゃという使命感だったんだろうなと思いました。優しい人だからこそ忘れようとしても忘れられないというのがビシバシ伝わってきました。
兄だという事を明かしてからのシーンは多く映さず、犬の散歩をするかなえを後ろから見守るようについていく姿と共にタイトルを出して終わるというなんともオシャレな終わり方でした。物語に余韻も残していましたし、今泉監督らしさを再体験する事ができました。
役者陣も今泉組の面々から珍しい人選などなど様々な面で楽しむ事ができました。キチっとした役の多い真木よう子さんが少し抜けた感じな役割が好みでしたし、井浦さんの感情を表に出せない感じがプンプン伝わってくるのも好きですし、出番は多くないけれど存在感バッチリな江口のりこさん、胡散臭さの中にある優しさが沁みるリリー・フランキーさんと豪華な顔ぶれを贅沢に起用していて不思議な感覚に陥る事ができました。
ここ最近は原作準拠の作品が多いので、ここいらで今泉監督のオリジナル作品が見たいなと思っている今日この頃です。
鑑賞日 10/17
鑑賞時間 19:45〜22:15
座席 C-11